記者会見にて-03
「これはあくまで、私個人の発言となってしまうので、ここから先はオフレコでお願いしたいのですが」
「あぁ、構いませんよ。他の奴らも、連邦同盟が云々なんて、対して話題になりそうにねぇ事、わざわざ記事にしないでしょ」
「話題に、ならない?」
「秋沢さんは当事者だし気になるだろうけど、一般市民はAD兵器の製造情報開示や機密条項なんかに興味ないでしょ、って事」
「ああ、なるほど。私は可愛げのない女だと、そう仰りたいのですね、藤堂様は」
「いやいや。秋沢さんはいい女だよ。後五歳年がいってりゃ口説いてる」
「面白い方ですね」
とりあえず言付は取ったが、記事になってもいいような言い回しで、しかし本心を話すとしようかと思考した楠は、口を開いた。
「まず、国家間AD機密協定――通称【連邦同盟】と呼ばれる協定は、問題を抱えていると言っても過言では無いでしょう。
この条約は、加盟国及び加盟企業同士が製造したAD兵器の情報を開示した上で、さらに一国が保有できるAD兵器の上限を設けた条約であります」
「加盟国同士のパワーバランスを調整する役割がありますよ。それがどうして問題と?」
「簡単です。例えば高田重工――我々が搭乗する秋風の製造を行い、AD兵器の産みの親と言える我が国誇りの企業は、何と加盟企業ではないのです。
結果、秋風の製造・改修・管理は全て高田重工に委ねられ、防衛省や文科省は小国の防衛費にも匹敵するライセンス料を高田重工に支払っている始末です」
「ですね。何たってあそこが、何時の世もADの最新技術を提供している。加盟しなくたって情報が入ってくる上、それを他社に、多国に奪われる理由が無い」
「これを国に置き換えましょう。幸いな事にアメリカ、ドイツ、そして我が日本は加盟国となっておりますが、中京共栄国、そしてロシアや欧州連合と言った大国ですら、非加盟国家なのです」
そうなった段階で、この同盟は非常にナンセンスだと、楠は言った。
「今回の一件が、本当に非加盟国がバックアップをしているテログループの犯行だとするのならば、そもそも連邦同盟と呼ばれる情報開示・規制条約そのものに欠陥があります。これが今の世に蔓延る【冷戦】と呼ばれる抗争を生み出していると言ってもおかしくはないのです」
「非加盟国が加盟国に対し、テロリストを使って攻撃を仕掛け、鹵獲した機体や収集した機密情報から、最新技術を奪おうとする事を、世間じゃ非公式に【冷戦】って言ってるみたいですね」
「実際に攻撃を仕掛けられている側は国や企業そのものですから、冷戦と呼ぶべきかは議論すべきでしょうが……その通りです」
ADという兵器が発展してからは、世界各国で内紛や紛争と言った直接的な戦場は米国主導の元に鎮圧が成されているが、その代わり――情報を得ようとする者達が起こす冷戦が世界各国で起こっている事は事実だろうと、彼女は述べる。
「冷戦機構が本当に非加盟国による手引きなのだとすれば、それは連邦加盟国や非加盟国と言った括りがある事自体に、問題があるのではないかと思います。
その問題が是正できるかは、学生の身分である私にはどうにもできませんし、仮に身分があったとしても、どう改善すべきかも今の所思いつきません。
であるなら、現状を嘆く事しか出来ぬ、連邦同盟の決議を行った国連の方々を責める事もできません。私個人の意見は、こんな所でしょうか」
ふむん、と。藤堂は顎に手をやりながら彼女の言葉を思い出す様に口ずさんでいたが、やがて綺麗な拍手を奏で、笑った。
「いや、マジで若いのにしっかりしてるね、秋沢ちゃん。今、加盟国、非加盟国、国連全部にツッコまれないようにトークしたでしょ?」
「それ位は当然です」
「いや、まさか一つもツッコむべき所が見当たらないとは思わなかったよ。俺より地頭いい。朝読は加納じゃなくて彼女を記者にした方が良い記事書けんじゃね?」
「それは良い就職先候補ですね。検討しておきましょう」
周りの記者から、再び笑いが蔓延った。代わりに加納は真っ赤になる顔を俯かせ、隠した。
「他のご質問は、宜しいでしょうか?」
声を少しだけ大きくして、楠が問いかける。他の記者も頷きつつ、帰り支度を整えている。
恐らくだが、今回の会見で彼らが成したかった事は、各省庁が報告に上げた内容と食い違いが無いかを確認する為の、それこそすり合わせでしか無かったことは、最初の質疑応答で分かっていた。
「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございました。現在は余興として各クラス対抗の交流戦も行われておりますので、どうかそちらの記事も宜しくお願いします。
――これからも、子供たちの成長を是非、見守って頂ければ幸いです」
最後に深々と頭を下げた楠と共に、記者たちも一礼。楠が顔を上げると彼らも退室し、応接間に平穏が訪れた。




