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私たちの試作機は最弱です  作者: 音無ミュウト
第六章

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58/222

交戦中にて

 現地時間、2089年7月21日、1438時。

日本AD総合学園諸島。

AD総合学園高等部・第五模擬戦用グラウンド。


鋼鉄の機械人形が、跳んだ。砂埃を舞わせながら膝を深く落とした後に飛び上がった人型兵器――アーマード・ユニット兵器、通称ADは、十メートル近い人型兵器である。


四階建ての校舎分は跳んだ自身を、肩部に搭載された大型電磁誘導装置が対空させ、機体内でメインモニタに映る対戦相手へと視線を送る少女――否、少年・城坂織姫。


彼が駆る機体は、授業で用いられる日本防衛省が制式採用する純国産AD兵器・GIX-P4【秋風】だ。


 八頭身のスリムな造りをした四肢と、機体の自立と空中での姿勢制御を支える大型電磁誘導装置が肩部で存在を強調させた、日本が誇る史上最強のADと名高い傑作機である。


「どうした、来ないのか天城さん」


 耳元に取り付けたインカムを使用し、声を投げかける織姫の顔立ちは、一見しただけでは男性に見えず、中性的な顔立ちをした女性と見紛う者が多い。


 しかし言葉使いは男性のそれで、スピーカー越しに彼の声を聞いた天城と呼ばれる少女は『お口が悪いですよ』と安穏と声を挙げた。


『織姫ちゃんのお顔立ち、すごく可愛いのに』


「俺は、可愛いって言われるの、キライなんだよ」


『残念。私好みの、女の子っぽいのに』


 織姫の駆る秋風と対峙する機体も、同じくGIX-P4【秋風】である。


 しかし織姫の機体が背部に四枚のウイングに似た形状の姿勢翼を有しているのに対し、彼女――天城幸恵が機体に着ける装備は、脚部に有する展開型キャタピラと一つのアサルトライフル。


幸恵機は、ふくらはぎにマウントしていたキャタピラを展開、脚部が僅かに浮いて、キャタピラによる高速移動が可能となると、瞬間に駆けた。


空中を舞う織姫機に背を向け、腰を落としながら駆け出した幸恵機を訝しむように、しかし「待てよ!」と声を上げて追いかけると、すぐに機体を翻しながら、右手に持つアサルトライフルの銃口を織姫機に向け、躊躇わずに引き金を引いた。


放たれる弾丸。しかし織姫の反応速度は速かった。すぐにマニピュレーターを操作して機体を銃弾より右方に逸らせる事に成功すると、電磁誘導装置の誘導を切り、地面へ急速に落下していく。


着地の寸前で再び電磁誘導装置を起動させる。急制動のかけられる機体の中で僅かにシェイクされる感覚。しかし織姫はそれを物ともせずに、姿勢制御幹を操り、綺麗に着地を行った。


だが彼の動きを見切っていたように、眼前では幸恵機がスタンバイしていた。キャタピラを用いて、疾く織姫機へと接近する幸恵機。彼女の機体は再び銃口を向けて、引き金を引く。


発砲。空気抵抗による僅かな逸れも考慮された銃弾の軌跡は、織姫機に叩き込まれる――と、幸恵は思っていたかもしれない。


しかし、技一つ足りぬ。織姫機は電磁誘導装置を稼働させながら地を蹴り、肩部を起点としながら機体をバック転させ、正確に胸部装甲を狙った銃弾を、避け切った。


「甘いっ!」


 ニヤリと笑いながら、彼女の正確な射撃をむしろ嘲笑った瞬間。


『ええ――可愛らしい甘さ。織姫ちゃん』


 銃弾を放ちながらも接近する事を辞めていなかった幸恵機に、バック転した後の隙だらけな機体を、思い切り蹴り付けられる。


腹部装甲を殴打する、幸恵機の回し蹴り、織姫は揺れる機内の中で「あーっ」と声をあげ、代わりに姿勢制御を忘れていた。


地面に無様な姿で倒れ込む織姫機。瞬間に判定が下されるブザーが鳴り響いた。


『勝負有り。三年Bクラス、天城幸恵の勝利です』


「え、いやちょっと待てよ! オレの秋風はまだっ」


『今の戦闘が実戦であれば、追撃に銃弾が貴方の機体を襲ったでしょう。それを対処できましたか?』


 ブザーの後に聞こえた声へ反論した織姫の言葉に、更なる反論。グッと口を紡いで、言葉を探す織姫だったが、しかし判定を覆す言い訳は思い浮かばなかった。


「――あーもー。分かったよ、オレの負け」


『うふふ。じゃあ織姫ちゃん。今日は女子生徒の制服着てね』


「そんな賭けをした覚えねぇけど!?」


 言葉を交わしつつ、機体の胸部コックピットハッチを開け放った、織姫機と幸恵機。


織姫がコックピットハッチに足をかけると、対面のコックピットハッチからも、人の姿が。紺色のパイロットスーツを着込んだ黒髪の女性である。


 彼女は短い黒髪をボブカットで整えた、常に笑顔の絶えぬ女性であるが――織姫は、彼女の事がどこか苦手だった。


 天城幸恵。AD総合学園高等部・パイロット科三年Bクラス所属の少女である。なぜ彼女がパイロット科一年Cクラス所属である織姫と模擬戦を行っていたのか、それは――


「今回の勝負は、単に交流試合だろうに」


「うん、そうだね。けど勝った方が何でもいう事を聞くって約束はしたよ」


「誰と」


「私の中に眠るもう一つの私と……!」


「それ約束じゃないっ! ただの妄想って言うんだよ!」


 一年に一回、一クラス毎に代表者を選定し、模擬戦を行うAD学園高等部の恒例行事が【クラス代表交流戦】である。他学年や他クラスとの交流を目的として開催されるこの催しは、長くAD学園では人気な祭事である。


セーフラインを越えた先のグラウンド外では、多くの生徒たちが観戦をしているし、校舎の中には如何にも偉い方と思わしきスーツを着込んだ老人の姿も見受けられる。


『次は一年Aクラス・島音のどか対二年Bクラス・高橋佳代の勝負を開始致します。皆さま、熱き戦いに心躍らせてください』


 スピーカーより聞こえる声が織姫と幸恵の両名に「早く退け」と言っているようだった。二人はコックピットに入り込んで機体を動かし、各々の格納庫へと戻っていくのだった。

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