AD総合学園の一日-02
一時限目の授業、数学。
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二時限目の授業、現国。
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三時限目の授業、英語。
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四時限目の授業、物理。
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「そう言えば思ってたんだけど」
織姫は、昼食を口にしながらキィボードを叩き、未だに処理の終わらない書類に辟易しながらも、気分転換の為に周りへ問うた。
「AD学園ってADに乗る時間の方が少ないのな」
その問いには、良司が答えた。
「そう言う期間も無くはないのだが、AD総合学園のパイロット科はADの専門学校では無く、通常の授業にAD操縦技術を学ぶカリキュラムが組まれているだけ。しかし、整備科とOMS科は違うんだ。なぁ明宮」
「そうですね。哨から聞いているかとは思いますが、整備科とOMS科はほとんど専門学校扱いとなっており、取得必須資格さえ取ってしまえば、授業の参加は自由となっているのです」
「文科省にバレると面倒だがな」
文科省と防衛省の二省庁が共同で運営を行っている国営学校であるからして、教育レベルの向上と共にADパイロットの育成に努めているという背景がある。最低限必要な知識量を有していれば卒業は容易であるという。
「けどさ、ランク付けテストにAD以外の学力を足されたら、俺ずっとCランクの自信あるぞ?」
「そこは自慢げに言う事では無いと思うがね。ならば会長に勉強を教わればいいのでは?」
「勉強嫌いだし」
「そもそも勉強の意思すらないというわけか」
「ずっとCランク確定ですね」
今生徒会室にいるメンバーは織姫、良司、梢の三人だけだ。
楠は各省庁に出向き何やら「すり合わせ」とやらをしているそうで、織姫もそこはあまり気にしないようにしていた。
昔から彼は様々な折衝を他の者に任せてきていたので、そういった側面が苦手なのだ。
「久世先輩はそういうの好きそうだよな」
「キライではないがね、高校生の身分であまり大人びた事をするのは、背伸びをしているようで気分はよろしくないよ」
「梢さんは色々と裏から手引きする感じのが得意そう」
「失礼な。私は哨の為に動くことはあっても、自分の為に何かすることはありません。
そういった事は全て会長と会長補佐に任せてありますし、何よりする理由もありません」
昼休みの時間は短い。三人は会話と昼食、書類の処理をそこそこに退室し、五時限目の授業へ向かった。
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五時限目、操縦。
この時間になり、ようやくAD学園らしい授業となる。
授業内容は様々であるが、基本的には操縦基礎を学ぶ他に模擬戦等が主だった授業だ。
本日の授業は射撃訓練。秋風の標準装備である60㎜突撃機銃を用いて的に命中させる訓練だが、織姫だけは別の役割を割り当てられていた。
――的である。
秋風に高速戦パックを装備させ、キャタピラー走行によってグラウンドを駆ける織姫。
周りの秋風は、そんな織姫機に向けて一斉射撃を開始。
四方八方にばら撒かれる銃弾。全て模擬弾頭ではあるが、命中すれば着弾判定による機体損傷再現がされてしまい、動けなくなってしまう。
「っ、と!」
愚直にロックオンをして銃弾を放つだけのCクラス生徒たち。
織姫にとってはそれらを避ける事は容易い。何せ着弾点が予想できるのだから、着弾点から移動すればいいだけだから。
機体を高速で動かす織姫機。彼はキャタピラの展開をやめて一時停止すると、周りの機体が一斉に銃弾を放つ光景が浮かんできた。
着弾までの時間は一秒とない。しかし慌てる事無く地面を強く蹴り、上空へ跳ねた。
今は高軌道パックではないので、滑空はできない。
しかし電磁誘導装置を用いて姿勢制御もできるし、空中であれば各部スラスターや両腕両足を動かすことによっての能動的質量運動である程度機体を動かすことも可能だ。
一機の後ろを取り、背中を肘で強く打ち込み、倒れさせる。同時にキャタピラー走行を再度展開した上で走り回り、慌てふためく周りの機体も次々に殴り倒していく光景を、担任である峰岸も「よしよし」と頷き、満足気に笑うのだ。
「はぁ、やっぱ姫ちゃん強いー」
「何でロックオンしてるのに当たらないのぉ」
「ロックオンしてたらよっぽど風向き悪い状況でもない限り、まっすぐこっちに向かってくるからだよ。それなら射線上から逸れる形で移動すれば当たりはしない」
「でもロックオンせずに相手に当てるなんて」
「ADをただの巨大ロボットだとしか認識してないからそうなるんだ。ADは自分のもう一個の体。ちゃんと動かせばちゃんと答えてくれる。ここまで優秀な兵器システムなんかそうないぞ」
「それをコイツらが理解できるようになれば、少なくともBランク位には上がれそうなものなんだがな」
峰岸のため息。それと同時に五時限目終了のチャイムが鳴り響き、「実機訓練終了ー! 格納庫へ走れ!」と指示。
全員は搭乗していた秋風を操縦し、割り当てられておる格納庫へ機体を向かわせるのであった。
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六時限目、体育
短く息を吐きながら、織姫はランニングマシンで汗を流している。
既に何キロ分走ったかは定かではない。知る気もないし、彼にとってこの時間は苦痛ではなく生き残るための体力を得るための時間だった。
「姫、毎回思ってるんだけど、飛ばしすぎじゃね……?」
織姫の隣にあるランニングマシンで走る明久は、彼のペースに決して合わせていない。
「一時間しかないから、飛ばすしかないだろ」
「AD乗りにどうして、体力がいるんだよ」
「ADの最大稼働時間が問題だよ。グレムリンでさえフルパワー稼働させて三十六時間稼働するからな」
「稼働するから何なんだよ。ずっと座ってるじゃん」
「何時でも気を張ってなきゃいけない。座っていようが立っていようが、どこかの戦場にいればいつ敵が目の前に現れるか分かったものじゃないからな。
集中力保持の為には体力だ、無心になって何時でも走る事ができるようになるのが一番」
授業開始から四十五分経過。そこで織姫は一度全速力で足を動かす。ラストの五分間だけだが、追い込みには一番好ましい。
「良い心がけだな、城坂」
「ハイッ」
「……通常の授業もそれくらいのやる気があればいいんだがなぁ?」
「今後善処しますっ」
「よろしい」
言質は取ったと言わんばかりに、峰岸は満足げにその場から去っていく。
しかし織姫は内心 (勉強なんかしませーん)とだけ思っていたのは確かだった。




