AD総合学園の一日-01
城坂楠の朝は早い。
朝六時に起床。起きて早々に洗面台へと向かい、歯磨きと洗顔を終わらせ、メイクへと入る。
とは言っても自前の顔立ちが良いものだから、少し肌にファンデーションで色味を付ける程度の化粧である。
続いて、洗濯物の確認。昨日の夜に着込んでいた制服と下着は一緒に洗濯を行う――が。
「……お兄ちゃんの、パンツ」
一枚のトランクスをマジマジと見据え、しかし途中で首をぶんぶんと振って正気に戻り、洗濯機へと叩き込む。
洗濯機のスイッチを入れて静かな稼働をし始めた事を確認し、キッチンへ。
今日は卵の賞味期限が切れかかっている筈なので、全て使ってしまおうと冷蔵庫を開けると、七つほどの卵がまだ残っている。ちなみに賞味期限は今日まで。
卵の殻を割ってボウルへ出し、とき卵にしていく。油を引いたフライパンにといた卵を流し込み、固まる前にフライパンと菜箸を揺らし、スクランブルエッグに。
現時刻、朝七時。楠は兄の部屋をノックして「朝だよー!? 起きてーっ」と叫び、返事がない事を確認して、再びフライパンへと戻っていく。
ベーコンも余っていたっけ、と考え、冷蔵庫を再び開ける。
ベーコンのパックが二つ、更にこちらも賞味期限が本日までという状況に、楠は「あぁ、もう」と軽く苛立ちを覚えながらも、封を開けてフライパンへ再投入。
パチパチと焼けていくベーコン。
楠はベーコンをカリカリになるまで焼き上げるタイプで、兄は一度も焼き加減に注文をしたことが無いので、そのまま自分好みに仕上げていく。
「あ、お米」
炊いていたかと思い炊飯器を開ける。先日の晩御飯で炊いたお米がまだ残っているので、朝食には十分だろう。
賞味期限は大丈夫だが、納豆のパックも二パック用意。
ついでにお湯を注いで完成させるインスタント味噌汁を二つ用意するも、準備が面倒なので水を入れてレンジへin。良い子はマネしないように。
「お兄ちゃん、朝だってば!」
『ん……後、五分』
「ダメだよ、今日は八時までに生徒会室について被害状況の最終チェックと交流戦の準備があるんだからっ!」
『ん……後二時間』
「増えてるじゃないっ!」
むぅと頬を膨らませ、兄の部屋を開ける。
ベッドに横たわり、幼い表情を気持ちよさそうにして眠る兄の姿。しかし時間が無いので心を鬼にする他あるまい。
「お兄ちゃん、起きて」
「ん……あ。楠、ごめん」
「ううん、起きてくれればいいの」
「いやそうじゃなくて……楠、下半身、下着姿だぞ」
「へぁ?」
つい、変な声が出た。
確かに起きてから着替えをしていないので、眠っている時の肌着とパンティというあられもない姿だった。
普段ならば着替えた後に朝食作りに向かう筈が、今日は忙しさと寝ぼけで着忘れていたのだ。
「い、……っ」
急いで下着を隠しつつ、自分の部屋に向かう。制服を着込んで兄の部屋までダッシュで戻り、今一度やり直そうとするが――
「あ」
「あ………………その、か、かわいい、ね」
「今、俺バカにされたか?」
兄は、寝るときに全裸派なので。
着替えている時の彼は、ほぼ生まれたままの姿なのだった。
**
朝八時。生徒会室にて様々な雑務をこなす必要があったので、学園へ到着すると同時に向かう。
そこには既に久瀬良司と明宮梢、清水康彦、村上明久の四人がいた。
「おはようございます」
「おはようさん」
楠と織姫がそう挨拶すると、四人も口々に挨拶をする。
「島根は?」
「寝坊だろう。期待しない方が良い。計算が早いだけで役に立つわけではないからね、彼女は」
織姫の質問へ端的に返した良司は、一つのデータを織姫の使用する量子PCへと送信し「それを頼む」とした。
「えっと……次の交流戦かぁ」
「どういう組み合わせが良いと思うね」
「参加メンバーがこれだろ……? 後々につまらない戦いになっても困るし、いい感じに戦力バラかしちゃうか」
渡されたデータを処理している間、六人の間に会話が成されるが、ほとんどが他愛も無い話である。
「姫、二時間目の現国、プリントやった」
「あ……やべ、忘れた。お前は?」
「やったけど合ってる気がしねぇよ」
「明宮姉、今度のOMS調整に関して、お前の意見も欲しいのだが」
「清水のOMSに私が意見ですか? あまり参考にならないと思うのですが」
「いやいや明宮。君のOMS調整は僕も実力を知っているがね、下手な企業技師が行うよりかは信用できる」
「所で会長は何で顔赤いの?」
「朝からずっとこうなんだよ」
「お兄ちゃん! 変な事言う暇あったら手を動かして!」
「動かしてるじゃんか!」
そうして業務を行う事四十五分、始業開始十五分前には業務を中断し、彼らは授業へと向かうのだった。




