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青春の始まり-05

 試作UIGから、先ほどまでごたごたに巻き込まれていた子供たちが、帰ってゆく。


 その姿を見送りながら、霜山睦はフッと息を付いた。


「彼らは、我々の目的に同意してくれますかな?」


 睦の副官である遠藤が小さく問いかけると、睦は首を振った。


「分かりません。賢い子供たちではありますが、雷神プロジェクトはまだ、ただの夢物語です。


 それに同意するかどうかは、彼らが本当に『この国の平和を願う子供たち』かどうかです」


 睦の本心としては、同意してくれると願いたい。しかし、彼女たちが目指す未来はあまりに脆く、そして論理的ではない。


賢い子供達だからこそ、この願いに賛同するかどうかは、分の悪い賭けだった。


 せめて祈ろうと、ただ顔を伏せて彼らを見送っていると――雷神の機体前で立ち尽くす、一人の少年が居た。


城坂織姫だ。睦はシェルターから身を出して、彼の元へと駆けていく。


「どうしたのですか? 皆さんとご一緒に帰らないので?」


「ああ。まだ聞きたい事があったんだよ」


 織姫は、睦へと視線を向ける事無く、ただ雷神を見ながら、彼女へと問いかける。


「何でアンタは姉ちゃんの願い通り、オレに初期原案の雷神プロジェクトを教えたんだ?


 オレを雷神プロジェクトに誘いたかったんなら、姉ちゃんの意向なんか無視して、オレに本当の事を教えればよかっただろ?」


 城坂聖奈は彼を守る為に、彼を意図的に傷つけようとして、初期原案の雷神プロジェクトを教えるよう、睦へと進言した。


 だが睦としては確かに、織姫が雷神プロジェクトに賛同してくれた方が、都合が良い。


「あなたは、きっと傷付いても立ち直られる筈だと、信じていましたから」


 睦は、自身の口からさらりと出た言葉に、自分自身驚きながらも、だがその答えが事実であると認め、微笑んだ。


「……それに! 絶望の後に希望を見せられた方が、人間と言うのは気持ちを揺るがせてくれるんですよ?


 事実、あなたは見事立ち直り、こうしてこの機体に乗り込んでくれました」


 だがそれだけでは何となく負けた気分になる。少しばかりイジワルな言葉を放つと、織姫もフッと笑みを浮かべた。


「アンタも策士だな」


「ええ。私は城坂修一様の、部下ですから」


「アンタと親父は、どういう関係だったんだ?」


「城坂修一様が、高田重工の役員だった頃、彼の部下として働いていた時期があったのです。


 それ以降から私はずっと、あの人に御心を捧げてまいりました」


 彼の平和を愛する心に対し、霜山睦は信仰した。その願いを聞き届けた織姫は――しばし何か考える様に、睦へと視線を向けた。


「皆が、どうするかは分からないけれど――オレは、アンタに付いていくよ」


「……いいのですか?」


「ああ。――オレは、親父の願った夢物語を、信じてみたい」


 織姫が、睦に対して手を伸ばし、睦は彼の手を恐る恐る、握る。


 その手は、その温もりは、彼女が信じた男性――城坂修一と、本当にそっくりだった。


「……雷神はもう、あなたと楠さんの機体です。授業でも模擬戦でも、自由にお使い下さい」


「え。いいのか?」


「はい。既にその存在が新ソ連へ知れてしまったのならば、もう隠す必要はありません。


 あなた方が幸せに戦える機体なのです。思うがままに、お使い下さい」


 それが、城坂修一の願う夢の第一歩だと。


霜山睦は、城坂織姫に、そう語り掛けた。

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