青春の始まり-01
『隊長は、オレの弟と同い年なんですよ』
オレ――城坂織姫は、自身の隣に陣取りながら座る、部下のマーク・Jrが放った言葉に首を傾げた。
『弟? マークに弟いたのか』
『十五歳の頃に、リンチで殺されちゃいましたけどね』
『黒人差別で?』
『そう。弟はやっても居ない無実の罪を「黒人だからお前がやったんだ」って押し付けられて、同級生にリンチを受けて……病院に搬送された時には、死んでました』
『相変わらず酷いんだな、白人と黒人の確執は』
『オレだって若い頃は散々な目に遭いましたよ。でもいつか変わる、何時か黒人差別はなくなるって――そう泣いている弟に言い聞かせて、生きていました』
『でも、変わらなかった』
『はい。だから弟が死んだ日、弟の墓前で誓ったんです。「オレがこの世にある差別を是正する為に、のし上がってやる」……って』
『黒人差別だけじゃなくて、この世にある差別全部を?』
『現実的に考えて、無理じゃないかなとは思うんです。――でも、人間には心がある。その心が差別を産むけれど、その心があれば、何時か理解して貰えるんじゃないかなって、そう思いました』
『立派だよ。マークは立派だ』
『隊長には、夢は無いんですか?』
『夢? ――いや、無いな。オレはずっと戦い続けるよ。それしか、オレに出来る事なんて無いから』
『日本にご家族は?』
『親父はこのアメリカで死んだし、母親もオレを産んだ後に死んだってさ。姉がいるって話は聞いてるけど、他に家族はいるのかな』
『帰りたいって、思わないんですか?』
『……実は、少しだけ、家族ってものを、知りたいとは思う。……けれど、日本に帰る事は考えてない。平和ボケした日本じゃ、戦い続けるのは難しいから』
『じゃあ、ずっとオレ達の隊長で居てください。オレにとっての隊長は、あなたしかいない』
『ありがとう。なら』
『なんですか?』
『オレが、マークの弟になってやるよ』
『え』
『オレにとって今の家族は、マークやアーミー隊に居る部下たちだ。オレの年齢だと兄貴ってガラじゃないから、弟で手を打ってやるよ』
ニッ、と笑みを浮かべたオレに対して、マークは大粒の涙を流して。
オレの身体を強く強く――抱きしめた。
抱きしめてくる彼の体温を、オレの頭を撫でる大きな手の感触を――これからもずっと、オレは忘れないのだろう。
『……ありがとうございます、隊長。でも、それはダメですよ』
『なんでさ』
『隊長はやっぱり、何時か日本へ帰らないと。あなたの持つ温かさを、あなたの帰りを待つ本当の家族に、与えてあげないと』
『オレの家族は、お前たちだけだよ?』
『嬉しいです。嬉しいですけど、ダメです隊長。
――家族以外の人間に、温かさを届けられるあなたには、血に塗れる戦場なんて、似合わないんだから』




