愛情-04
敵襲警報と共に、城坂楠と神崎紗彩子、二人の口論が、一旦止まる。
焦りの表情を浮かべて、楠は冷や汗を流しながら翻り、走り出そうとする。
「お兄ちゃん……!」
武兵隊の執務室から、急ぎ出て行こうとしていた楠の手を、紗彩子が制した。
「お待ちなさい、どこに行くつもりですか!?」
「お兄ちゃんを迎えに行かないと! アンタの家にいるんでしょ!?」
「迎えに行ってどうするつもりです!? 彼は引き金を引けぬ身です。それなのに彼を戦いに誘うと言うのですか!?」
「アンタには関係ないっ!」
「大有りです! 私は学園の治安維持を目的に設立された、武兵隊の隊長ですっ!」
「ならアンタだっていい、お兄ちゃんをすぐに助けに行かないといけないの! だって奴らが狙ってるのは――雷神プロジェクトなんだから!」
楠が紗彩子の手を振り解いた時。紗彩子は彼女に問いかける。
「奴らとは――やはり貴方は、敵の事を知り得ていた。だから彼を何時でも守る事が出来る様に、生徒会に無理矢理入会させたのですね?」
「なら何だってのよ」
「敵は一体何者なのですか? 雷神プロジェクトの事を知って、このAD学園へと襲撃を仕掛ける意味――
それが分かれば、何をどう守ればいいか分かるではないですか」
「それなら道中で話す、だからさっさと動いて!」
ひとまず彼女の言葉に頷き、紗彩子は楠の小さな手を掴みながら、身体を走らせた。
まず向かった先は、武兵隊用の整備格納庫である。紗彩子は自身の秋風に搭乗し、サブシートを展開。
パイロットスーツを着る事無く機体を起動させ、楠をサブシートに座らせた。
楠は手に持つ携帯端末から情報取得を開始。現在の状況を確認した。
「敵本隊は、まだ横須賀基地と、正規軍駐屯基地でくすぶっている。今の内にお兄ちゃんを回収して、あそこに行かないと」
「あそこ、とは?」
「アンタが聞いてるかどうかは知らないけれど、四六の試作UIG。そこなら一先ず、お兄ちゃんの安全は確保できる……と思いたい」
「四六――試作UIGを所有する、雷神プロジェクトを推し進めている防衛省の部隊、ですか」
機体の起動が終了。
紗彩子は模擬弾が装填されている武装を全て取り外し、代わりに実弾が装填されている115㎜砲の砲身と予備マガジンを装備した上で、格納庫のハッチを開けて、そこから機体脚部を動かして走り始める。
装備していたプラスデータが相変わらず砲撃戦パックである事が災いし、走る速度はどうしても遅くなるが、人間が走るよりは早い。
機体を紗彩子の住むマンション前で立ち止まらせ、自宅窓までコックピットを寄せつつ、紗彩子がベランダに降り立った。
ベランダの施錠は開けられたままなので、部屋に入ると――
「織姫、さん……?」
家の中に、彼はいなかった。




