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愛情-01

 神崎紗彩子の自室は、至ってシンプルな部屋作りが施された部屋だった。


 オレと楠が住んでいるマンションのように、2LDKの作りは同じであるが、小さなソファと二人掛け用の机と椅子、小さなテレビ以外に物は無く、女の子らしい小物などは皆無だった。


 一応小さな本棚のようなものはあったが、全てAD兵器用の資料だったり戦術書だったりする。


そんな部屋の中で、オレと神崎が向かい合って座っている。彼女はオレの話を聞きつつ、顎に手を置いて何か思考しているようだった。


「――まとめると、貴方は【雷神プロジェクト】と呼ばれる計画の為に生み出されたコックピットパーツであり、生徒会は非公式に、プロジェクトを支える次世代の人材を集めている部署である、と」


「そういう事に、なるのかな」


 ――今日一日泊める事を条件に、何があったかを話しなさい。


そう言い放った神崎に対して、少しだけ迷った上で「口は堅いか」尋ねると頷くので、仕方なく今日あった出来事を語ったのだ。


「あの、これは、機密性高い情報の筈だから、他の奴に喋る事は」


「言った筈です。私の口は堅いのです。誰彼構わず口を開いてしまう程、私は低俗ではありません」


「……助かる」


 ホッと息をついた。


 この【雷神プロジェクト】自体は、もう実行する事が難しい計画ではあるものの、それを牛耳ってるのが防衛省となれば、まだまだ機密性は高い筈だ。


 ならば口止めをしておかなければ、彼女の身分が危険に晒される。


「貴方に、お聞きしたい事があるのです」


「聞きたい事?」


「なぜ、引き金を引く事が出来なくなったのか。貴方ほどの実力者であれば、最初から引き金を引けぬわけでは無い筈。――何があったのか、それが知りたいのです」


 それは今まで、誰にも言った事が無い事実。初めて他人へ語る事となる、オレの過去だ。語りたくも無かった。


だけど――彼女には。


神崎にだったら、語ってもいいんじゃないかと、そう思えた。


「……一緒に作戦を行っていた仲間を、オレが撃った弾で、殺してしまった」


「フレンドリーファイア、ですか」


「ソイツの名前はマーク・Jr。黒人の男で、オレの部下だった。身長は百九十六センチで、体格はとにかくごつかった。


 でも黒人差別を是正する為に戦っていて、オレの事を日本人だからってバカにしなかった。オレは、ソイツの上官ではあったけど……ソイツの事を、兄のように慕っていた」


だけど、殺してしまった。オレが撃った銃弾で、その黒い肌を、朱色に染めて、殺してしまった。


震える手、体。寒気と同時に吐き気を催す感覚が湧きおこり、オレはブルリと身を激しく震わせていた。


だが――そんなオレの身体を、立ち上がった神崎が、ギュッと、温かな体で、抱き寄せてくれた。


「辛かったでしょう。いえ、今も尚辛いのでしょう」


「……うん」


「いいのですよ、もう、辛さを抱えなくても。貴方は確かに、AD兵器を操縦する為に生まれたのかもしれない。


 ですが、人生を決めるのは、決して他人では無い。貴方が決めるのです。貴方が、自分の意思で、ADを操る道を、選ぶか否か」


「……オレ、小さい頃から、ADしか、乗ってこなかった男だから……他の事なんて、わかんねぇよ」


「不器用なお人。貴方はこれからの人生、どれだけの時間が続いていくのか、分かっているのですか?


 もし百歳まで生きるのだとすれば、残り八十五年は生きる事となるのです。


 五十歳まで生きるとしても、三十五年……長い長い道のりです。


 だから、これから見つけて行けばいいのです。それ以外の道を、楽しみを――貴方が、したいと思う事を」


 オレがしたいと思う事。オレが成したいと思う事。


 それが何かは分からないけど――神崎の言葉を聞いて、少しばかり楽になった自分が居た事は、確かだった。


「……神崎、ありがとう……ありがとう……っ」


 彼女の胸で泣き続けた。オレが泣いている間、神崎は慈愛の表情を浮かべながら、オレの頭を撫で続けてくれた。


よく知らないけれど――彼女はまるで、母親のように、強かで、けれど優しい。


 そんな温もりを、持っていた気がする。

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