雷神プロジェクト-09
オレ達三人がそう言葉を繰り返すと、遠藤二佐が部屋に備えられたプロジェクターを起動させ、部屋の壁に一枚、AD兵器のカタログスペック表を映し出した。
スペックを見た清水先輩と哨は、驚愕の表情を浮かべる。
「何……これ!?」
「……正気の沙汰じゃない」
そう綴った二人。残念だがオレはずっと現場に出向いていた人間であるからして、カタログスペックだけでは、イマイチ理解が出来無い。
「お二人が驚かれるのも、無理はありません。このスペック表が現すものは『秋風に搭載されている全能力を三倍に増やし、かつリミッターを設けない仕様』であると語っているも同様なのですから」
「秋風の全能力を三倍……リミッターを、かけない!?」
そう聞けば、確かに二人の驚愕は当然である。秋風に搭載されている高速処理チップは、機体制御から武装処理まで並列処理を行ったとしても余裕が保たれている。
オレが行っているように、反映度の設定を一度にした上でも処理落ちを回避するようにしているのだ。並の人間であれば、これ以上を求める必要は無い。
それに加え、秋風が有する機体出力の三倍が発揮される機体となれば、その圧倒的速力は人間の身体を簡単に壊してしまう。
内臓はボロボロとなって血反吐を撒き散らし、その上脳みそはシェイクされる。そんな状況下で操縦者に冷静な判断など出来っこない筈だ。
「この機体は、GIX-P001【雷神】と申します。城坂修一様が提唱した【雷神プロジェクト】のナンバーゼロワン。
驚異的な攻撃能力と機動性により、この一機だけでAD兵器何十機分と言う戦闘能力を持ち得る、一騎当千の超高性能AD兵器です。
【雷神プロジェクト】は核兵器の存在意義と同じく、圧倒的戦闘能力を持ち得るAD兵器を、国が複数機所有する事により、他国――主に新ソ連を牽制する事を目的としたプロジェクトで、この機体はその試作機なのです」
そこで、オレは思わず「バカか親父は」と呟いてしまった。
「そんな夢物語、有り得ない」
だが霜山一佐は、オレの言葉を面白そうに聞いている。
「何が有り得ないと言うのです?」
「有り様、プロジェクト自体に無理があると言いたい所だけど、そこは置いておく。
それ以前にまず――この機体を、操縦するパイロットが居ない事だ」
何度でも言う。この機体を常人が操縦する事は不可能だ。
まず前提条件がクリアできないのであれば、それを夢物語と罵っても、何ら間違いはない。
「その通り。清水康彦さんがおっしゃったように、正気の沙汰じゃありません。この計画は、まず根本から間違っているのです」
「だったら、親父は何のためにこの計画を」
「ですがもし、この機体を操縦出来る人間が、いるのだとしたら?」
「え」
続いて表示されたスペック表は、AD兵器のカタログスペックでは無かった。
――雷神プロジェクトナンバー・ゼロツー【織姫】と。そこには、そう記されていた。
「織、姫……?」
哨が、呆然と立ち上がり、プロジェクトナンバーゼロツーの名を、ひっそりと口にした。
「雷神プロジェクトナンバー・ゼロツー【城坂織姫】。
これは、GIX-P001【雷神】を操縦する為、人間の受精卵に人為的な遺伝子操作を行い、肉体強度・反射神経・身体能力を常人より数倍高い、改造人間へ仕上げた【コックピットパーツ】の名前です」
「【オレ】……!?」
「明宮哨さんならば、身に覚えがあるでしょう。
城坂織姫さんは、驚異的反射神経によって『常人ならば使い余してしまう程のスペックを持つ秋風』を『内部システムから改修しなければならない』程の操縦スキルを持ち得ます。
それは――果たして常人と呼べるのでしょうか」
「ち、違、っ! オレは、そんなっ、雷神プロジェクトゼロツーだとか、改造人間だとか、そんなのじゃ……そんなのじゃ……!」
「貴方が一歳の誕生日を迎えた日。アメリカで行われた国際会議にて【雷神プロジェクト】を大々的に発表しようとした城坂修一様。
だけれど、その夢は叶わなかった。
――彼は新ソ連系テロ組織が引き起こした爆破テロにより、命を落とした。
その身を米軍高官の下に預けられていた城坂織姫さんは、そのまま米軍へ身を置き、AD兵器のエースパイロットにまでのし上がった。
生まれた時から有していた『AD兵器を操る為に生まれたコックピットパーツとしての役割』を、貴方は生まれながらに感じていたのです」
でなければ、生まれて四歳の頃に、AD兵器の操縦免許を取得し、テロ組織に対処するべく設立された【アーミー隊】の隊長として、若干十四歳の若さで着任する事など、確かに、有り得ない事なのだ。
「貴方が城坂聖奈さんの策略によって生徒会に所属する事となった理由は、今のAD総合学園生徒会が『城坂聖奈理事長が厳選した、雷神プロジェクトを支える、次世代を担う子供たちをまとめる場所』であるからです。
会長である秋沢楠さんは、この事実を知った上で今の生徒会を束ね、来るべき有事に備えている」




