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最後の想い-02

 もう、何回殴ったのか。


もう、何回殴られたのか。


それを正確には覚えていないし、意識もハッキリとしていない二者は、それでも操縦桿を引き、押し込み、敵機を殴り、殴った衝撃に耐えている間に振り込まれる一撃を食らい、倒れないように姿勢制御だけを行って機体を保ち、再び殴る。



織姫の眼球は血に塗れて、視界は既に赤色だ。それでも、敵の輪郭を掴む事は出来るから、ただ敵の顔面を目掛け、雷神の拳を振るう。


振るわれた拳を受け、リントヴルムは受けた衝撃で胃酸を吐き出し、一緒に血反吐もコックピット内にぶちまけるけれど、それでも前を向き続け、拳を振るい返す。



二者には既に、痛みなどない。


感覚は麻痺していて、操縦桿を握る手すらも痺れている。


だが、それでも――それでも二人は、楽しかった。



――お前と初めて戦った時の事を、今でも思い出す。


殴りながら、織姫は笑う。



――オメェと殺し合って、オレはこのADなんていう兵器の楽しさを知った。


殴られながら、リントヴルムは笑う。



――恐怖で震えた。けれど今思えば、それまでのオレという存在は、恐怖すら知らないガキだった。


殴り返されながら、織姫は笑う。



――ADなんてつまらねぇと、戦闘機に乗りてぇと駄々をこねてたオレは、オメェって存在を知る事で、戦う理由を貰えた。


殴りつけながら、リントヴルムは笑う。



――お前という存在を知って、オレは怒りも知る事が出来た。


倒れそうになる機体を無理矢理前のめりに倒しながら、右足を振り込み、蹴りつけながら、織姫は笑う。



――この兵器なら、オレの劣情にも応えてくれると知った。


蹴られた事で、雷神に押し倒されるも、仕返しと言わんばかりに右膝で蹴り返し、その腹部に跨るリントヴルムは、笑う。



「リントヴルム。お前は、真っ白だったオレに、感情を与えてくれた」


「オリヒメ。お前は、塞ぎ込ンでたオレに、新しい楽しみを与えてくれた」


「だから、オレはお前と決着を付けたい」


「だから、オレはお前と決着を付けてぇ」


「オレと」


「お前は」


「似たモノ同士――ッ!」


「だからよぉ――ッ!」



 今、風神が振り下ろした両腕が、雷神の頭部に、叩きつけられた。



両機共に、それを最後にして、動かなくなった。



リントヴルムは、途中から「前が見えねぇ」という理由から開けていた機体コックピットハッチを出て、しっかりと動かない足を無理やりに動かしながら、雷神のコックピットへ。


雷神のコックピットも、途中から開かれていたから、侵入は容易い。


ハッチに足を付けながら――霞む目で、その小さな体を、見据える。


ぐったりとシートに背中を預け、倒れている血塗れの少年が、一人。



――死ンじまったのか、と。



リントヴルムは寂しい気持ちを堪えながら、せめて最後に、彼と触れ合いたいと、彼の元へ、降りた。



「……オメェと出会った場所が、戦場じゃ、無けりゃ……ナンパする位、可愛い顔してんな」



 笑いながら、彼の頬に触れて、最後にキスでもしてやろうかと笑ったリントヴルム。



――そんな彼の腹部に、何かが、押し付けられる。



「あぁ……ようやく、当てられる」



パイロットスーツ越しに押し付けられても形は伝わらないから、ただ固い物が押し付けられたとしか分からない。


けれど、それでも分かった。


それは――彼と初めて顔を合わせ、彼が銃を撃てなくなった戦場で、リントヴルムが向けられた、9㎜拳銃。


しっかりと押し付ける事で固定し、震え、出血多量で力が入らない指でも、トリガーを引いた織姫。


銃声と共に、放たれる弾丸。


それはリントヴルムの腹を貫通し、彼の元々か細かった意識を、更に遠のかせる。


織姫に、抱かれる様に、リントヴルムは体を倒れさせるけれど。



 二人とも――その表情は、笑顔だ。



「よぉ……オリヒメ」


「ああ……リントヴルム」


「当てられた……じゃ、ねェか」


「うん……これで、マークの、仇……討てた」


「ならよぉ……最後、位は……オメェの、胸で……」


「……いいよ」



 リントヴルムは、その顔を織姫の胸に埋め、息絶える。


織姫は、そんな彼の最後を――慈母の様な微笑みと共に、頭を撫で、見届けた。




「……お前を、愛してやれるのは……オレだけだし……


 オレの、これまでに、決着をつけられるのも……お前だけ、だからな……」



 

 遠のいていく意識。


それでも、リントヴルムの頭を撫で、彼の手を握り、彼の最後を、自分の最後まで、感じ続ける。




――オレはこのまま、死ぬかもしれないけれど。


――もし目を覚ました時に、後悔しない生き方を、選べたと思う。



――楠、哨、神崎。


――このまま死んじまったら、ゴメンな。




意識が落ちても尚。


城坂織姫は、リントヴルム・セルゲイビッチ・リナーシタの手を、握り続けた。

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