戦う訳-07
AD総合学園高等部区画。
そこは、戦場であるとは言い難い、たった二機のAD兵器による戦いがあった。
60㎜機銃、肩部に装備された六連装ミサイルランチャー砲、腰部の追加アタッチメントに搭載されたアルトアリス用の電磁砲を装備した上で、その高機動性を以て高等部第二校舎の屋上へ足を付けながら右足を軸に回転し、機銃のトリガーを引く機体――GIX-P006【風神】
風神より放たれた弾丸を空中で姿勢制御を行いつつ避け、さらに放たれた六連装ミサイルを急制動と超機動を以て避け、風神へと殴りかかる機体――GIX-P001【雷神】
二機の神を名乗りし機体は、互いの利点を生かしながら、秋風やアルトアリスでは実現しようのない超機動を見せている。
『織姫、ガントレットが死んだ』
『……そうかよ』
城坂修一の言葉に、城坂織姫は決して狼狽えない。
電磁砲を放ちながら第二校舎グラウンドに着地した風神。着地と同時に振り込まれた雷神の拳を、脚部キャタピラを稼働させる事で後方へ避けたが、その動きを読んでいたように背後へ回ろうとする雷神へ牽制として60㎜機銃の弾丸が襲う。
『睦さん。貴女にまだ良心が残っているのならば、今すぐ機体を停止させなさい』
『こひゅぅ……こひゅぅ……っ』
風神の超機動に耐える霜山睦には、城坂楠より放たれる言葉は届かない。
六連装ミサイルの残り装填可能回数は五。修一は次弾装填を行いつつ胸部CIWSと60㎜機銃での銃撃を止める事無く、弾丸を跳弾し続ける雷神に向け、左拳を振り込んだ。
雷神の左拳が、それを受ける。ゴウン、と揺れる両機。
しかし雷神の腹部に60㎜機銃を押し付けた風神によって、雷神は急遽左方へ跳んで放たれる弾丸を躱しつつ、地面を蹴って上空から両腕部を振り下ろす。
機体を前転させながら六連装ミサイルの次弾装填が完了した事を知った修一が、三発放った後に機体を一度動かし、その上で残る三発を放ち、次弾装填を行う。
雷神へと駆け抜けるミサイル群、しかし楠にとってそれはデータとの戦い。
脳が焼けきれるような感覚に抗いつつ、操縦桿とフットペダルを操作して機体を緊急回避させる。
迫る三発のミサイルは、可能な限り空を滑空する事で引き付けた後、機体の滑空を手伝う電磁誘導装置の動作を止めながら背部スラスターを全力で稼働させる事によって急降下を果たした結果全弾空中で爆発。
残り三発が着地した雷神へと上空から迫るも、しかし脚部キャタピラを稼働させて目にも止まらぬ急加速と急停止を繰り返す織姫の操縦によって、グラウンドへと着弾。
回避のタイミング、回避方法を予見していた修一が60㎜機銃と電磁砲を放つと、雷神の胸部をかすめる。直撃ではないし大したダメージではないが、胸部装甲が一部剥がれ小さく舌打ちをした織姫は、全スラスターを稼働させ、グラウンドの砂をまき散らす。
敵は上空――そう分かっていた修一が60㎜機銃を構え、銃撃を行うも、しかし空中で電磁誘導装置での姿勢制御と腕部や脚部を動かす事によっての能動的質量運動を繰り返す雷神はそれを避け、風神に接近すると左腕部を風神の顔面へと振り込む。
それが避けられる事は承知の上だ。織姫の狙いは面倒な六連装ミサイルランチャーである。
風神が顔面に向けて放たれた拳を避けると、それが肩部に搭載されていたランチャーに命中し、殴り飛ばされる。
そのまま左腕を振って雷神の腹部へアッパーカットを決めた風神の攻撃に、一度動きを止めそうになるもキャタピラ走行で後方へ下がっていく。
『それだけか。お前のダディが死んだというのに、それではガントレットも浮かばれないだろう』
『お前を殺した後にどれだけでも泣いてやる。それが今戦場に立つオレのやるべき事だ』
機体を後ろに下がらせながら、高等部第二校舎グラウンドから飛び出た風神。道路をキャタピラ走行で滑りながら、60㎜機銃のマガジンを交換、背後に迫る雷神へと撃つ。
銃弾を甘んじて受けながら、風神以上の速度で駆け抜け、左方へと位置した雷神が繰り出す肘打ちを、急停止と共に地面を蹴りつけて上空へ跳んで躱すという方法で躱した修一は、格納庫区画まで走り抜けると、そこには既に秋風の軍勢によって勝利を収めた後の姿が。
突然現れた風神と、それを追いかける雷神の攻防を目で追いかける事は難しい。
拳や蹴りを用いて敵を落とそうとする雷神の動きも勿論だが、現在は60㎜機銃と電磁砲を使用して攻撃し、雷神の動きを抑制する風神の動きも、既に常人では耐え切る事の出来ない超機動によって成されているから。




