戦う訳-06
――しかし、そこに一つ、誤算があった。
先ほど、のどかと紗彩子が落としたとしたアルトアリスは、まだ撃墜に至っていなかった。
既に機体の左腕部が吹き飛んでいる状態で尚、奇跡的に誘爆もせず、揺れながらも立ち上がったのだ。
格納庫跡に避難していた者達が、一斉に騒ぐ。
だが、二人だけ。
明宮哨と、明宮梢だけは、決して慌てず、その場でこちらに向けて掌速射砲を向けているアルトアリスを、睨んでいた。
試作UIGへと続くゲートから、一機の秋風が飛び出した。
その機体はプラスデータバックパックを装備する事なく、速射砲の一撃を受けて左腕部を消し飛ばされるも結果として避難民へ着弾する事は避け、その弾頭を放った瀕死のアルトアリスへ、地面を蹴って右肩で突進し、最後に右脚部を振り込んで損傷した部分を蹴りつけ、沈黙させた。
『ミハリと、コズエは、殺させない……っ!』
ホッと息をつく避難民は、すぐに避難を再会。
だが、哨と梢はまだ避難せず、通信機を手に取って、助けてくれた秋風へと繋ぐ。
「ありがとうズーウェイ。また、貴女に助けられた」
「私からも、お礼をさせて下さい」
『ううん……だって、今の私には、皆を守る為の、力があるもの』
動かなくなる機体を放棄。機体から身を乗り出した少女――ズーウェイは、そのまま戦線に向けて駆けだしていく。
「ズーウェイ! 機体起動コードは『kodomotati』だよ!」
哨の言葉に、彼女は手を振るだけで、言葉を発する事は無い。
しかし、その後姿を見て、二人は頷き、そのまま避難民の皆に続き、試作UIGへと避難を開始する。
戦線より少し離れた場所に、無人機として用意されていた秋風が、その動作を止めて沈黙している。
機体に少々のダメージがあれば、自動演算で起動を停止するプログラムを施されていた為であり、この機体の破損状況を調べたが、60㎜機銃の流れ弾が機体に数十発着弾した事がダメージ計算に入ったようだった。
機体ハッチを強制開放し、シートに掛けて機体起動コードをキィボードで入力。設定されていた反応度と反映度が共に一度と言う、ADパイロットからしたら愕然とする数値を見て「ああ」と納得し、数値を簡単に弄るズーウェイ。
「この機体、シロサカ・オリヒメのアキカゼね」
機体の起動を開始。倒れ込む秋風・高火力パックを起き上がらせたズーウェイは、コックピット内で僅かに息を吐きつつ、胸に手を当て自身の疲弊状況を鑑みる。
「……いける」
今のズーウェイは、以前風神に搭乗した事によって内臓にダメージを負っている。
しかし、秋風を操縦する事に、問題はない。
機体を前線で戦う部兵隊へと近づけ、通信を取る。
『こちら追加要因、ズーウェイ。協力するわ』
『感謝します。では貴女は部兵隊二十一番機と呼称します』
『長ったらしいから、ズーウェイと呼んで』
紗彩子機に隣接し、115㎜砲を放っていくズーウェイ。
だが、敵からの砲撃も勢いを増し、このままでは攻め切る事が出来ずに疲弊するだけだ――と思考する紗彩子は、何か一つ相手を混乱させる事の出来る策を思考する。
そんな時、敵の一機が不意に電磁砲の砲塔を紗彩子機に向けた。
躱す事は容易いけれど、隣接するズーウェイ機に着弾する可能性がある。否、彼女の力量ならば躱すか……そんな思考を続けていたが、やがてそれは、放たれた。
『お困りのようだね。カンザキ・サエコくん』
声と共に。
紗彩子機の眼前に、頭上より振って来た大型ブレイド。
それが電磁砲を受けると、紗彩子は機体カメラを上空へと向け、それを視認。
『貴女は』
『シロサカ・オリヒメくんにお届け物があってね』
上空より二本のブレードを構えて敵機群へ突撃を仕掛ける、ほぼ同型機と思われる存在に、皆の動きが止まる。
それは、機体の至る場所を破損させながらも、応急処置によって駆動する事が出来ているアルトアリス。
しかし、敵が量産したアルトアリス試作二号機ではない。
『AD総合学園の雛鳥たち。私はエミリー・ハモンド、コードネームはオースィニだ。君達を援護するよ。――機体が似てるからって、誤射しないでくれたまえよ?』
援護、と言いながらも敵の真っ只中でブレイドを振り込み、敵の動きを止める所かすぐに二機撃墜を果たしたその機体を見て、呆然とする部兵隊面々。
しかし、紗彩子とズーウェイ、そしてのどかが好機と認識し、彼女に続き敵陣へ突撃する。
『アンタ美味しい所持っていきすぎ! アタシらの活躍が台無しじゃん!』
『なぁに、若い子供たちが未来を守る為に戦う姿は、それだけで画になるモノさ!』
『貴女、後でちゃんと顔をお出しなさいよ? 私、あの時痛い思いをしたのですから!』
『勿論さ! というか君へ罪滅ぼしがしたくて来たのだから!』
『また助けられるのね、貴女に』
『結構な事だ、子供は大人を頼りたまえよ!』
のどか機が敵機を殴り飛ばし、機体の四肢を切り落としていくオースィニ機、さらに二者の背中を守るように115㎜砲を放っていく紗彩子機とズーウェイ機。
四機の連携によって戦線の勢いを維持する事が出来なくなった量産型アルトアリス群は、五分と持つ事が出来ず、そのまま全機落とされる事となってしまうのだった。




