戦う訳-04
城坂聖奈は恐れない。
城坂聖奈は狼狽えない。
ただレーザーサーベルを握りしめ、トリプルD駆動とスラスター移動を繰り返すだけの彼女が、それでも未だに残る四機のアルトアリスに落とされる事なく飛び跳ねているか。
それは、彼女が放たれる速射砲や電磁砲の砲撃を完全に読み切り、寸での所で避けているだけの事。
何てことの無い、たった一つ当たり前の事だが――しかし彼女はそのままアルトアリスが狙う敵であり続ける。
聖奈機が、今援護をしてくれている有人機と無人機から離れ、アルトアリスを挟撃する形で反対側のエリアへと着地した瞬間。
それが本当の開戦合図だ。
アルトアリス四機へと向けて、ただ真っすぐに駆けていく聖奈機。
狙いの浅い、ただ援護をするだけの機体群よりも操縦技術の高い聖奈の排除を優先したアルトアリス各機が、全機一本のレーザーサーベルを構え、左掌の速射砲を放つ。
滑空しつつ、地面を這うように移動する聖奈機は、機体を僅かに動かすだけで放たれる速射砲を避けていき、アルトアリス四機とすれ違うタイミングで両手にあるレーザーサーベルを振る。
アルトアリスより振り込まれるサーベルを受け流しながら、上空を舞う為にフットペダルと姿勢制御幹を同時に操作した機体が、暴風と共に飛ぶ。
CIWSを撃ちながら上空を駆けた聖奈機を援護する115㎜の砲撃と、60㎜の銃撃を躱していくアルトアリス。銃弾が行き交う中を、それでも聖奈は急降下し、今一機のアルトアリスを斬り、墜とした。
『残り三機』
振り下ろされるサーベルを、受ける事無く機体を動かして避ける聖奈。すぐにその場から離れる為に地面を蹴ると、足元には撃墜された無人機秋風の60㎜機銃が。
左手レーザーサーベルをしまいながら掴んだ機銃のトリガーを引きつつ、スラスターを吹かす聖奈。
『明久君、突撃ってのは、こうやるのよ――ッ!』
スラスターを吹かしながらも、ただその場を舞うだけで決して駆け抜けぬ聖奈。しかし速射砲の雨を避け切り、敵が装弾に入った瞬間を見計らい、彼女は行動を開始。
背部スラスター、脚部スラスターを全力で吹かしながら突っ込む聖奈。
60㎜機銃を放ちながら接敵した聖奈は二機のアルトアリスへ両足で蹴りつけながら、ゼロ距離で銃弾を叩き込んで、弾切れと同時に銃創で敵機を殴打、放り投げながらレーザーサーベルを再度展開し、振り下ろす。
切り裂かれる二機。
残る一機だが――油断はしない。
バックジャンプ、バク転、ドライブDでの滑空。それらを組み合わせて、敵の射撃に当たる事無く逃れた聖奈機は、残る一機へと至る道に障害物がない事を冷静に鑑みながら、サーベルを振り込む。
敵――ヴィスナーも聖奈を相手に射撃は当たらぬと判断したか、速射砲の展開を辞めてレーザーサーベルを掴み、聖奈が振るサーベルと合わせて、斬り結ぶと同時に再び振るって、隙を決して作らない。
『学生風情に、どうしてアタシらヒューマン・ユニットがぁ……ッ!!』
『採点したげるわ。アンタら、連携戦闘が百点満点中五点なの!』
『はッ!?』
『確かにアンタら一人一人は強いし、こっちが仮に足並み揃えて無けりゃ、一機も堕とせずに殺されてただろうけどねぇッ!』
肩部の大型電磁誘導装置をフル稼働させ、アルトアリスを吹き飛ばした聖奈機。しかしすぐに稼働を止め、スラスターを吹かして姿勢制御を行っていたアルトアリスへと再度斬り掛かる。
急ぎ、サーベルで弾いて聖奈が振るった光刃を避けるものの、しかし追撃としてCIWSを放ちながらサーベルを振るう彼女の動きに、思わずアルトアリスは地を蹴り、上空へ逃げてしまう。
それは悪手だ。何せ地上と違い、空中は姿勢制御を少しでも怠れば、銃弾の雨に晒される――!
60㎜機銃が、アルトアリス背部のスラスターに数発着弾。スラスターはT・チタニウムによって守られていない部分で、非常に繊細な部位だ。撃たれれば誘爆だってする。
『く――そおぉっ!』
着地と同時に、自身を狙って振り込まれるサーベルを何とか転がりながら躱し、地面を滑るようにして姿勢を戻したアルトアリス。
だが、聖奈はもう止まらない。
アルトアリスに隙があろうと、無かろうと、その光刃をただ振り込み、こちらの隙を作る事すら許さない。
『戦場はね――主導権握った方が勝つのよっ!!』
『チクショウ、チクショウチクショウチクショオオオオッ!!』
振り込まれるレーザーサーベルを何とかサーベルで受け、流し、後ろへ跳ぶ。
しかし、聖奈はそこでサーベルを――投げた。
突然の事に、投げられたサーベルを切り落として躱し、聖奈機の行方を目で追うヴィスナー。
しかし、既に聖奈機は眼前に無く――アルトアリスの頭上を取っていた。
60㎜機銃を再び手にし、CIWSと同時に放たれる銃弾。
銃弾の雨に晒され、T・チタニウム装甲が銃弾を弾くものの、しかし衝撃によって動く事もままならないアルトアリスは、今自身へ迫る聖奈機へ、何も行動を起こす事が、出来ない。
機銃を放棄した聖奈機は、マニピュレータ―を真っすぐに伸ばし、首元にあるフレームと装甲の繋目に突き刺し、拉げた装甲を掴んで、そのまま剥ぎ落とすように、腕を振るう。
投げられる機体内でシェイクされ、頭を操縦桿に打ち付けるヴィスナー。
機体が宙を舞うと――それを狙った無人機の秋風が、115㎜滑腔砲を撃ち込んで、落とす。
『……出鼻をくじかれた段階で、アンタらは不利だった。なのに連携も考えず、ただバカスカ撃つだけの機械だったアンタらに、アタシの可愛い教え子達が、負ける筈無いじゃん』
機体を無理に稼働させ過ぎた。
放熱を終わらせた秋風は、その場で膝をついて、駆動を停止させる。
高機動パック装備秋風・城坂聖奈機も今、行動不能となった。




