戦いの中で-08
「……セイナにも似たような事を問われ、その時には上手く答える事が出来なかったが、今なら分かる。
私は、あの子のダディでしかなかった。父でも、パパでも、お父さんでも無い。
オリヒメは、心のどこかで自分の父親であるお前の事を考えていたのだろう。私を育ての親として、一線を置いていたのだろう。
勿論あの子なりに、私への親愛を抱いてくれていただろう事は分かっている。
けれど、それでもあの子は、お前と言う親父と、私と言うダディの存在を、分けたんだ。
あの子は強い。あの子は聡い。私は――そんなあの子が、愛おしかった。
そんな幼い子供の心を否定する事なんかできなかった。
『シュウイチは死んだ、もういない、私がお前のパパなんだぞ』と、そう言ってお前の事を忘れさせることが、出来なかった。
だから私は、あの子がなりたいと願う姿へと至る道を示した。
ADに乗りたい、兵士になりたいと言ったあの子の望みを可能な限り叶え、それでもダディとして、あの子が生き残る為に必要な技術を叩き込んだ。
私は私なりに、あの子の幸せを、願っていたんだ」
「……ガントレット。君が僕へ問うた言葉を、君へ繰り返そう。
君は、今の織姫と、抱き合えるか?」
「ああ、出来る。だが、もうお前があの子を抱く権利はない」
「どうして? 僕は君が言ったように、あの子の父だ。お父さんだ。パパだ。
なのになぜ、僕があの子と抱き合う事が許されないッ!?」
「お前はどれだけあの子の事を裏切った? お前はどれだけあの子の想いを踏みにじった?
そんな冷たくて熱も無い体に堕ちたとしても『世界の平和なんか知るか、オレは子供を抱きに行く、愛している子供たちの元へと行く』と、そう言えなかったお前が、あれほどまでに強くて聡いあの子の父を名乗る事なんて、許される筈が無い……ッ!!
それは、ダディである私が許さない――ッ!!」
「どうして、どうして皆分かってくれないッ!?
僕だってこの体へと堕ちた時、それでもあの子たちを抱きしめに帰りたかったさッ!
けど、織姫や楠と言う自分の子供を兵器として仕上げてしまって、今のこの世界を、ADという兵器が生み出された結果の世界に秩序をと、それが僕の背負うべき業なんだと決意した僕の想いを、願いを、どうして皆理解してくれないんだ――ッ!!」
「そんな事決まっているだろう。お前が勝手に背負うと決めた業なんか、子供たちには一切関係ないッ!
そんな手前勝手な贖罪なんかより、お前が泣きながら帰ってきて、抱きしめてくれていた方が、よっぽどあの子たちにとっては救いだったんだよ――ッ!!」
「――ガントレットぉおっ!!」
「――シュウイチぃいいっ!!」
二人が同時に、降ろしていた銃を、構えた。
自動拳銃故、勿論持ち上げる速度は修一の方が早かった。
しかし、放った銃弾は六発。
銃身の大きなP90で、頭部を守ったガントレットは、三発を銃身で受け、その腹部に命中する三発を身体で受けた。
それでも、彼は止まらない。
P90を乱雑に構え、トリガーを引いたガントレットの放つ銃弾は、計二十四発。
それらはヒューマン・ユニットである修一の身体に当たるが、けれど彼を壊すには至らない。
だがしかし――その強力な専用弾は、彼の肉体に存在する関節部や装甲同士の繋目等に着弾し、火花を僅かに散らした。
「ぐほっ、がっ」
血を吐くガントレット。致命傷こそ避けてはいるが、確かに身体を貫通した銃弾によって、彼はいずれ出血多量によって死に絶える事であろう。
対して、修一に血は流れない。だが彼も着弾した銃弾の影響で、もう満足にヒューマン・ユニットとしての体を動かす事は出来ない。
既に二人は――満身創痍と言っても良い。
「……はは、僕の、勝ちだ。どうせ、奇をてらって君だけで突入し、僕やヴィスナーを管理する量子PCを破壊するつもりだったのだろうが、それは出来ないよ……なぜなら」
「この……UIG自体が……埋め込まれた、量子PCの……本体だから……だろう……?」
口に溜まる血を吐きながら言ったガントレットの言葉に、修一が目を見開いた。
「コズエ、が……持って逃げた、データに……UIGの構造が、記載されて、いた……構造が、UIGにしては、明らかに……研究や、開発を行う為の、ものではなかった……ッぅ、……反して、壁は一層毎に、分厚くなって、いて……ADの襲撃程度、では……破壊できない、堅牢な造り……つまり、旧世代、光ファイバー網を、用いて……壁に、埋め込まれた……量子PCと接続する事で……通信する、仕組み」
「何故……それが、それが分かっていながら、何故君は、君はッ!」
「私が……この大事な、局面で……戦力を、出し惜しむ、筈が……無いと、思わんか……?」
彼の言葉に、修一がようやくそこで、彼の計画を察した。
今回作戦に参加したADは三機。
数自体は問題ではない。先日までの戦いで、アーミー隊が所有できるADの総数はかなり減ってしまっている状態であるし、急遽の作戦であれば少数先鋭の部隊で作戦を行う事も、珍しい事じゃない。
問題は、何故作戦に参加したFH-26【グレムリン】の装備が、ハイジェットパック――つまりポンプ付きと呼ばれる機体ではなく、旧世代型の高機動パックだったのか。




