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戦いの中で-04

「何故真っ当に、貴方の言葉を世界に届けようとしなかったの?


 こうしてインターネットで貴方の理想を掲げるだけでも、貴方の理念に同意してくれる者もいたでしょう。


現に今、貴方の言葉を聞いている者の中には、きっと貴方の言葉を正論だと受け止める者もいるでしょう。


ですが貴方は、貴方が忌む兵器によるテロ行為を、貴方自身が成している。


それは酷く矛盾しています。貴方が詰まらない、ただ過激で大胆な革命家モドキであるとしか思えません」



「そうして言葉を世界に向けるだけでは足りないんだよ。


 考えてもみろ。世界はインターネットによって様々な情報が行き交う世の中になったとは言え、例えば中京共栄国は通信インフラの制限により、この言葉が届いていない人ですらごまんといる。


 僕の言葉が少数の人間に正論だと伝わったとしても、その議題を国連が取り上げた所で、大半の国が自国の利益を優先して反発する。


 僕は、僕が起こす攻撃行動によって最終的に平和が勝ち取れるのならば、それでいいと考えている。


 確かに過激で大胆な革命家モドキのやり方かもしれないが、それによって平和が成されるのならば、それでいい」



「その間にどれだけの人が死ぬというのです? 貴方が作り上げる犠牲には目をつむるというのですか?」


「つむらない、受け止めるよ」


「無用な犠牲を生み出している時点で同じ事よ。貴方のやろうとしている事は、酷く身勝手で、自分の言葉を世界に聞き入れて貰えないと吠え、暴力に訴える――そう、言ってしまえば子供の様な人」



 修一は彼女の言葉を聞いて耐え切れぬと言わんばかりに立ち上がり、叫ぶ。



「ならば今まさに、この世界のどこかで紛争に巻き込まれ、死ぬ者がいる現実に目をつむれというのか!? それこそ愚かだ!」


「何度も言いましょう! 貴方のやり方は矛盾していて、そんな貴方の言葉を受け止めようにも、正しくない方法を認めるわけにはいかない!


 世界は物語じゃない。貴方の自分勝手な言葉や思想によって、多くの人々が死んでいく現実を、受け止める事なんか出来ないっ!」


「楠……っ」


「ああ。私、分かりました。何故あなたが、そこまでムキになって、私を言い負かそうとしているのか」



 突如、楠は笑みを堪える事が出来ず、ケタケタと笑う。



「……何?」


「貴方の言葉や理想を叶える為ならば、こんな話し合いは無駄でしょう?


 もしこれが小説やドラマであれば、何て詰まらない言い争いをしているのだと、きっと読者や視聴者は離れていく事でしょう。


『君に認めて貰わずとも、僕は自分の理想を叶えてみせる』とでもカッコつけて、このAD学園を占拠すればいいだけの事です」



「……ああ、その通りだ。君を言い負かす利点などないよ」


「でも、貴方は事実、私を言い負かそうとした。その理由を、ご視聴頂いている方にも説明をしなければね」



 藤堂の持つカメラへ向いた楠は、ぺこりとお辞儀をした。



「ご視聴の皆さま、自己紹介が遅れて申し訳ありません。


 私は、秋沢楠と言う名で、このAD総合学園の高等部生徒会長を務めている者ですが――この苗字は偽装です。



本当の名は城坂楠。この城坂修一の遺伝子を半分受け継いだ、この男の、娘です。


そして、私と私の兄は、この男によって受精卵の段階で遺伝子を改造され、ADという兵器に搭乗すべく最適化された、言わばコックピットパーツとして生を受けました。


今、私の部下がそれを裏付ける資料も含めて、全世界へ流していますので、詳しくはそちらをご覧になって下さい」



「何を、楠ッ」


「何を? 言った通りですよ。貴方が私や兄に施した遺伝子改造の計画、雷神プロジェクトの開発記録から資料までも、全てインターネット上に公開、流出させたのです」


「何の為にそんな事を!」


「だって貴方、本当は世界の平和を求めているわけじゃなくて、私や兄のような人間が二度と生まれない世界を求めてるだけでしょう? その結果生まれる世界が平和なだけ。


そして、既に貴方の目的を知ってしまった私の兄・織姫は、貴方のやり方を否定し、貴方を父と認めない、とまで言い切った。


自分は子供の幸せを願っているのに、どうして認めてくれないんだと。


 娘の楠ならば、父である自分の理想を分かってくれる筈だと、そう願って私と言い争い、認めてほしかっただけでしょう?」


「違う、僕は……っ」



 修一が伸ばした手を、楠は叩き落とし、睨みつける。



「残念だけどね、私達はアンタの事を二度とお父さんなんて認めない。


 アンタが、私達を作った理由も、目的も、その理念も分かっているし、それを嬉しいと思う時もあった。


けどね、こんなド派手な事を仕出かして欲しいなんざ思った事一度も無い。



――ありがた迷惑なのよクソ親父ッ!!」

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