戦いの中で-03
屋上の端と端から、修一と楠が歩きながら近づく。
既に二つの椅子が用意されていて、先に腰かけた楠が、もう一つの椅子に腰かけるよう、修一に手で指示した。
二人が席に着いた。
その様子をカメラで撮影する者がいると気づいた時、修一が「彼は?」と問うと、楠が代理で名刺を修一へと出し、それを受け取る。
「自分は、フリーの戦場カメラマンをやらせて頂いてます、藤堂です」
「マスメディアか。準備の良い事だ」
「たまたまウチの生徒を取材していただけです」
「この放送は現在、インターネットを通じて全世界に配信されています」
藤堂がそう言うと、修一は「僕を映していいのか?」と笑いながら藤堂へ問い、彼も頷く。
「自分は、戦場の現実をありのまま伝えるのが仕事です。それが自分の執筆した文章でなくとも構わない」
「残念だが、僕はマスメディアがキライでね。特に日本のマスメディアは酷い。市民を扇動し、自分たちに都合の良い事だけを報道するその姿勢を、ずっと僕は嫌っていた」
「ですがコレは、彼女が望んだことでしてね」
楠は、髪の毛をひとまとめにしていたポニーテールを解き、かけていた眼鏡も外して放り投げた。
「さぁ、城坂修一。貴方がこんなバカげたテロを企てた理由を、世界中に発信なさい」
「何を考えている、楠」
「言えないというの? とんだチキン野郎ですね。子供たちを危険に巻き込み、それでも成したい事が、世界に発信できないと?」
「出来るさ」
「ならば言いなさいな。それが出来ないのならばサッサと投降しなさい」
「何を企んでいるかは知らないが――いいだろう。望み通り、語ってやろう」
藤堂の構えるカメラへ、笑みを浮かべて顔を晒す修一の姿を、藤堂は無言で映し続ける。
「やぁ、この配信がどの様になされているかはわからないが、はじめまして諸君。
私はADという兵器を生み出した、通称【ADの父】と呼ばれた男――城坂修一だ。
知っている人はいるだろうけど、自己紹介をすると、僕は十四年前にとある議会で起こったテロによって死んだはずの人間だが、こうして生きている。
そんな僕が、このAD総合学園という子供たちの学び舎に、僕の設計・開発を行ったAD兵器、アルトアリスを大量投入して占拠を試みる理由は、一つだけ。
僕は、真の平和を築き上げたい。
何て事を言うのだと、正気を疑う者もいるだろうが、続けよう。
僕はこれから、このAD総合学園を占拠、ここを拠点とし、各国に進言する。
【統合国家設立】――つまり全ての人種・宗教・言語を統一し、国と国の境を無くし、全ての国が一つにまとまった国の在り方を」
そこで一拍置いた修一の言葉に、楠が口を挟む。
「統合国家の設立を、どうやって実現するおつもりで?」
「僕は何もしないよ。ただ進言するだけだ」
「ならば何故、このようなテロを行い、子供たちを危険に晒すと?」
「ただ言うだけでは、戯言だろう? その程度で自国の利益しか考えない国々が賛成する筈も無い。
このAD総合学園を占拠し、子供達の安全という手綱を我々が握る事によって、ようやく世界は重い腰を上げる。
だけど統合国家設立は、何も悪い事じゃ無いだろう? 現在の様に数多な戦場が生まれる紛争や、今後起こり得る国家間戦争を無くすための手段だ」
「必ず、宗教観の違いや思想の違い、そして反発する国も現れると思われますが?」
「その時こそ、僕達の出番だ。――まだあの機体は試作段階だがね、僕が開発を行ったGIX-P006【風神】の量産型を大量に、そうして反発する国、宗教団体、思想団体へと投入し、鎮圧する。そう、今まさにこうしているようにね。僕にはそれを成すだけの技術がある」
「それは言論弾圧です」
「だがそれによって戦争は無くせるよ」
「仮にそうしたとして、統一国家の自治をどの様に行うと?」
「その辺りは各国の話し合いで決めてくれれば構わないよ。僕の目的はあくまで国家統一による戦争の撲滅だ。
僕の開発したADや、戦闘機、戦車、戦略ミサイル等を使わない、平和な世の中を作るというのが目的だ」
「ならば、現在シェルターで恐怖に怯える人々を解放なさい。子供たちの学び舎を、貴方の一方的な理想によって破壊されることなど、あっていい筈が無い」
「全国家による承認――いや、既に使い物となっていない国際連合による承認が得られ、各国々が動き始めればそうしよう」
「我々は貴方の発言を信じる事は出来ません。明確なテロ行為を前に無防備を晒せば、それが危険となり得ますから。それでも、貴方は我々に降伏をして捕らわれろ、と?」
「そうだね、一応安全を保障したいが、確約は出来ない。何せ君達には武器が存在し、こちらはそれを排除しなければならない。反乱を企てれば容赦なく殺す」
話は以上だ、と言った修一に、楠が鼻で笑う。
「何とも――過激で、大胆で、その上で詰まらない事をやる人ですね」
「何?」
「ええ、私も統一国家設立自体は、賛成致しましょう。確かに現実、大きな紛争や国家間戦争を無くす最終手段は、そうして全人類が統一を果たした先にしかあり得ないだろうとは、私も思います」
「分かってくれるかい?」
「ですが、やり方が気に食わない」
バッサリと、彼女は臆することなくそう言い放って、立ち上がる。




