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戦いの前に-08

 考えつつ、Cランク格納庫まで向かうと、そこには雷神の他に多くの秋風が、多くの整備科生徒によって弄られている。



「あ、姫ちゃん。作戦会議終了?」


「ああ」


「姫ちゃんの秋風も戦線投入するけど、もし乗り換える場合はコード入力すればいつもの設定だから安心して」


「了解。哨」


「何?」


「お前ってオレとキスしたいとか考えるか?」



 哨が、手に持っていたレンチを落とした。



「……なんて?」


「オレとキスしたい?」


「……え、えっと」



 困惑してる。何をそんなに考える事があるのかわからなくて、オレは首を傾げて「わからないんならいいや」と、雷神のコックピットまでよじ登ると、彼女はタブレットを慌てて持って、ハッチまで同行した。



「え、えっと。まずは楠ちゃんを乗せずに起動だよね。姫ちゃん一人でもある程度は動かせるようにしてるから、ちょっとテストで動かしてみて。あ、格納庫出なくていいから」


「了解」



 機体の起動を開始。本来雷神はオレと楠の両名がいなけば機体システムを動かないが、以前清水先輩にオレか楠のどちらかがいれば起動できるよう変更して貰っているので、それは問題がない。


そして、今は哨がいる。戦闘に支障があるとしても、簡単に動かす分には問題が無いように弄って貰っているから、その場で機体を軽く動かす。



「よし、問題無し」


「そ、そうだね。……えっと、で……さっき、キ、キス……って言った?」


「うん。いや、神崎も楠も、あのオースィニって奴も島根の奴も、急にキスしてくるから、なんか女にとってキスって良いモノなのかなって」


「はぁ!? 神崎さんも楠ちゃんも、ていうか島根ちゃんも!?」


「うん。この間された」


「んで!? 姫ちゃんはキスの意味も分かってないの!? ……っかぁ~、マジで姫ちゃんは姫ちゃんだなぁ」


「何だよ。オレだって考えてないわけじゃないけど、意味が分からないから聞いてるんだぞ?」


「キスってのは、そりゃ簡単に出来る事だけどそうじゃなくて、言っちゃえば親愛の証なの! 『貴方の事が好きです』みたいな意味に近いんだよ!?」


「あのオースィニって奴も?」


「いやぁ、あの人はわかんないなぁ。あの人フランス人らしいからもっと軽い意味かもしれないけどさぁ。でも絶対楠ちゃんも神崎ちゃんも島根ちゃんも、姫ちゃんの事好きでキスしたっ! ボクが拉致られてる間にそんなことがあったなんてぇ……っ!」


「あー、後さっき神崎にもう一回キスされて、その時に『生きて帰れたら続きをしましょう』みたいなこと言ってた。あれなんだったんだろ」


「それ絶対夜のお誘いじゃん!? ていうかあの人無意識に死亡フラグ立てないでよ!!」


「死亡フラグってなんだ」


「気にしなくていいっ! ……え、ひ、姫ちゃんはその夜のお誘い、行くの!?」


「だから夜のお誘いって何だよ……」


「えっちな事だよっ! 神崎さん絶対姫ちゃんとえっちな事するつもりだよ!」


「Hな事……?」



 Hって何だ。英語のHか? 英語のHから始まる事……ダメだ、HELLかHELPしか思いつかない自分の頭が情けない。



「……もしかして、姫ちゃん」


「……Hな事って何だ?」


「……あぁ、もう」



 ため息をついた哨は、顔を赤くしながら、シートに座るオレの膝に乗ると、そのままオレと唇同士を、合わせた。


けど、そのキスは、今までの物と少しだけ違って――何度も何度も、位置を変えて重ね、相手を求めるかのような、そんなキス。


それは激しくて、何かこみ上げる情熱の様な物すら感じる……。



「……えっちっていうのは、これ以上の事をする、愛し合う行為」


「それは、その……な、なんか激しそうだな」


「ぼ、ボクも処女だから詳しくは知らないけどさぁ。でも、や、約束はしてないんだよね!? ね!?」


「約束はしてないけど、でもアイツが求めてるなら別に」


「ダメ、絶対行っちゃだめっ!」


「何でさ」


「ボクも姫ちゃんの事好きで、姫ちゃんのそういう初めてはボクが貰いたいからに決まってんじゃんっ」



 プイッと顔を逸らしながら、コックピットから飛び出そうとする哨の手を掴んで、一つだけ聞きたい事を聞く。



「そのHな事っていうのも、このキスっていうのもさ、青春に欠かせない事なのか?」


「……そう、かな。うん、そうかも」


「なら、神崎の事も、お前との事も、楠の事も……オレは、この戦いが終わった時に考えて、悩んで、その上で、決める」


「……そっか」


「それまで待たせちまうけどさ、その内お前たちからの告白にも、ちゃんと答えるよ。


 ……オレはお前たち皆の事、好きだから、しっかり一人に答えを出す事、相当悩むと思うけど」


「それでいいんだよ。それでこそ、青春なんだもん」


「これも青春なのか」


「そうだよ。悩んで、苦しんで、でもそうした先に待ってる楽しさとか、思い出とか、そういうのを青春っていうんだ。


 ……僕は、姫ちゃんに選ばれるのを期待して、待ってるから」



 そう言って、最後にオレと目を合わせ、ニッと笑った彼女の笑顔を――可愛い笑顔だと感じた事は、間違いない。

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