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生徒会-07

 まるで獣のようだ、と。神崎紗彩子は島根のどかの駆る秋風を観察し、比喩を口にした。


紗彩子は今、倒壊したビルとビルの間に自身の機体を隠し、数多ある建築物を蹴り付けながら上空を飛び回る、のどか機への対処法を考えていた。

彼女は、以前戦った城坂織姫と同等の実力を持ち得ながら、さらに武装を使った戦闘方法を知り得ている。そんな彼女に勝ち得る方法は、奇襲だけである。


どうしてもスピードでは高機動パックの出力には勝てはしないし、ピョンピョン飛び跳ねながら噛み付いてくる獣に対して自ら身を乗り出すのは分が悪い。となれば、地形を利用する他無いのだ。


紗彩子機は、右腕で瓦礫の一つを掴み取ると、それを出来るだけ遠くへと投げ飛ばす。


AD兵器の手によって投げられた瓦礫は宙を舞い、地面に落下すると共に大きな音を奏でて、散っていく。

その音に、集音装置も秀でた秋風のセンサーが反応すると、のどか機もそちらへと身体を向けた。


――チャンス!


115㎜砲の砲身を構えながらビルの隙間から機体を出して、引き金を引く。放たれる弾丸が、ビルの屋上に足を付けていたのどか機の胴体へと命中しようか――と言う所で。


『あはっ、そっちかぁー』


のどか機は、機体を捻らせながら弾頭を避けようとしたが、それは叶わずに左腕の関節部に受けた。だが、そのような事を気にする様子もなく、彼女は今姿が見えた紗彩子機に向けて、背部スラスターを稼働させて急接近を仕掛けてくる。


 今の一撃で、左腕は既に動かなくなっている筈なのに――!


自身の不利を、一切不利と考えぬ、思考回路がどこかおかしい女。紗彩子はのどかを、心の底で罵った。


今の一発が外れた時点で、襲撃は不可能となった。紗彩子は迷うことなく115㎜砲と脚部追加装甲をパージし、素体の秋風を稼働させる。素体の秋風では、高機動パックの秋風を相手にする能力は無い。だが使えもしない高火力パックを装備した鈍重の機体よりマシだろう。


腕部スリットにマウントされている対AD兵器用のダガーナイフを抜き放ち、のどか機を迎撃する為に準備すると、のどか機は脚部を振り回しながらCIWSを乱射しつつ、紗彩子機の頭部を回し蹴りで蹴り付けた。揺らめく機体、荒れるカメラ。だが紗彩子は、乱暴に操縦桿を押し込んで、ダガーナイフを眼前に向けて突き付けると、それがのどか機の右腕関節に食い込んだ。


「よしっ!」


 ――敵の両腕が死んだ!


 それを勝機と読み、紗彩子機は胸部CIWSをのどか機に放ちながら、再度ダガーナイフを、今度はコックピットに向けて振り込もうとした。


その時、僚機の撃墜を知らせるブザーが、機体内に鳴り響いて。

紗彩子は一瞬「え」と、そちらに意識を持っていかれた。


『……神崎ちゃん、つまんない』


 のどかの、心底幻滅したと言わんばかりの言葉と共に、のどか機は右脚部で紗彩子機を蹴り飛ばしながら、背部スラスターを強く吹かし、建築物に叩きつけられた紗彩子機の胸部コックピットに、思い切り飛び蹴りをかます。


蹴られた衝撃と、背後にある建築物に強く殴打される衝撃によって、紗彩子機のシステムが、撃墜認識を施す。


――この時。城坂織姫と、神崎紗彩子のチームは、敗北が決定した。


**


「勝者・生徒会チーム」


 多目的ホールの管制室に腰かけながら、モニター観戦をしていた秋沢楠が小さくマイクに向けて吹き込むと、通信を聞く四機に、声が響いたようだった。

良司機は織姫機を、そしてのどか機は紗彩子機の手を取り、その場から撤収を開始する様子を見据えて、楠はマイクを取り外して電源を切り――一筋だけの涙を流した。


「ごめんなさい、お兄ちゃん……ごめんなさい」


 彼女はただ、謝るしかない。


その声が、愛しい兄に聞こえる事は無くとも、彼女は自身の罪と、何も知らぬ兄に対し、言葉を止める事は無かった。

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