戦いの前に-05
正式名称はないが、修一はメイン稼働を行う自機がある福島県に建造されたX-UIGを、福島UIGと仮称している。
このUIGは要塞としての機能を持たないが、しかし特化した性能を持っている。
完全自動化における量産型アルトアリスの製造であり、本来であれば総計八十四機の量産型アルトアリスが、第七格納庫まで存在するこのUIG内に存在する筈だった。
しかし、明宮姉妹を連れて脱走を図ったリントヴルム、リェータ、オースィニとの戦闘で、その総計は五十三機にまで落ち込んでしまった。
しかも失った半数は――全てあのリントヴルム・セルゲイビッチ・リナーシタという一人の男が操る、アルトアリス試作五号機によって破壊された。
「随分と君の同型が破壊されたようだな」
「うるさい……っ! アタシだってイライラしてんのよっ! 何なのアイツ。アイツ一人だけで、アタシの操縦する量産型を、何機倒したってのよ……っ」
「計二十二機だ」
驚きの戦績である。勿論修一も、彼の前にいるヴィスナーも、リントヴルムという兵士が如何に優秀か、それは知り得ている筈だった。
だがヴィスナーはAD兵器の操縦兵として、決して弱い方ではない。むしろ全世界のAD兵器パイロットと比較しても、上から数えた方が早い程の実力を有している。
しかも、生身の彼女と比較しても、通常の人間よりも処理精度が高いヒューマン・ユニットである彼女の方が性能は高く、本来であれば同程度のスペックを持つ試作五号機を相手に、数の利で勝っている状況でこれ程までに破壊されることなど、考えられる筈が無い。
だが、彼はそれを成した。
最後には無理な駆動を繰り返した結果、神経パルスを破損し操縦が覚束なくなった機体へ一斉に速射砲を撃ち込んで破壊し、殺したが、それまでに失った犠牲が多すぎる。
「で、どうすんのよ。一応五十三機あれば、AD学園なんか簡単に落とせるけど、念には念を入れて量産を進めてからやるの?」
「いや、リェータや明宮姉妹が奪取されているのなら、ここの場所がバレている可能性が高い。そして、先にこちらへ攻め込まれれば、不利となるのは僕達だ」
もしこのUIGが迎撃戦に向いていた樺太UIGと同様の構造をしていれば、そうした手を取る事も可能だった。だが、残念ながらこのUIGはそうではない。
「早々にAD学園を落とし、四六が有している試作UIGを占領しよう。あそこは雷神の製造を行った関係上、占領してしまえば量産型風神の製造を進める事も出来る」
「そうね。ADに乗れるだけで、戦場に出たことも無い甘ちゃんしかいないAD学園なんざ、アタシらが五十三機もありゃ速攻で陥落出来る。さっさとやりましょ」
「問題は四六か」
修一は、一度目を閉じて自身の脳データが保存されている量子コンピュータと意識を接続させる。
量子コンピュータ上には、レイスが情報を取得できる監視衛星とリンクできるので、現在四六の有している艦艇【ひとひら】の場所もある程度認識できる。
「……現在四六はAD学園へ入港を果たした。つまり奴らは僕達がAD学園へ進行する事を想定している筈。それだけがネックだな」
「はっ。アーミー隊ならともかく四六の学生がどんだけ束になったって平気よ。アーミー隊はどうしたのよ」
「恐らくAD学園で補給を受け、後にここへ突入を仕掛けてくるだろう。AD学園での防衛作戦には参加しない筈だ」
「それは何で?」
「単純な話、アーミー隊と言うより米軍の部隊がAD総合学園で作戦行動を執る事が国際問題になりかねないからだ。
仮にアーミー隊であるという事を隠匿したとしても、ポンプ付きの映像や写真だけでも出回れば、米軍の立場が危うくなる」
「ふん、そんな保身ばっか考えてる連中に負けるハズも無いわ」
そう、その通りだ。
AD総合学園は、確かに機体スペックの高い秋風が多く配備されているが、その殆どは実弾を装備出来ない、あくまで学習用の機体だ。
スペックは自衛隊制式配備機と代わりは無いが、総計十二機の部兵隊と、久世良司、島根のどか、村上明久、城坂聖奈の秋風という二十機に満たない実弾装備可能機だけで、五十三機の量産型アルトアリスに対抗できると思う筈が無い。
「一応僕と睦ちゃんが搭乗する形で風神も動かす。そしてアーミー隊の突入を想定し、四機の量産型アルトアリスを当UIGに留置。計五十機でAD総合学園へ突入する」
「よっしゃ。アイツに受けた屈辱、逆らう学生共を殺して晴らすとしますか」
「ヴィスナー、撃墜は最小限に抑えなさい。僕達はこれから確かにテロを仕掛けるが、子供を殺す事が目的ではない」
「分かってるわよ。平和を勝ち取る為に必要な犠牲だけ払う事にする。……でも、その平和に逆らう反逆者共を圧制する分には構わないでしょ?」
そう言って狂気をまとって笑う彼女が、AD総合学園への突入準備に取り掛かっていく。
修一は、彼女へ気を遣う事なく、未だに風神のコックピットにこもっている女性の元へ行き、声をかけた。




