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戦いの前に-04

ひとひらは現在、AD総合学園港へ後一時間と少しという距離になり、現在は着港準備を進めている。


 艦載されるADの整備も並行して行われており、現在は高田重工の整備士だけでなく、帰還したばかりの哨も整備に加わり、高田重工の技師は皆一様に彼女の整備技術を見て、自分たちの整備が彼女に及ばないのか、それを実感している事だろう。


島根のどかは、一人で自身の秋風に搭乗し、胸の中にあるモヤモヤとした感情が何か、それを定めようと必死だった。



「アタシは、もう兵士じゃない」



 彼女は、もう昔の様に狂気によって戦う事は出来ない。


自分自身、ADで戦う事に愉しみを見出していた事は分かっている。


しかし、それは戦いによって人が死ぬのだという現実に、しっかりと向き合っていなかったからだ。


これからの戦いも、これまでの戦いも、違う。


戦えば、自分が敵を墜とせば、それだけで敵は死ぬ。


自分が誰かの人生を奪うのだと考えるだけで、胸がはち切れそうになる位辛い。


その感情に、気付いてしまえば、もうおしまいだ。



「島根」



 そんな彼女のコックピットに、一人の少年がやって来た。


城坂織姫だ。



「どうしたの、姫ちゃん」


「まだ悩んでんのか?」


「……甘いよね、アタシ」


「そうだな、甘ちゃんだ」



 機体のコックピット内に入り込んで、サブシートを展開した彼は、そのまま背もたれに全身を委ね、目を閉じた。



「けど、それは戦場じゃ忘れなきゃいけないけど、こうして戦いにいない時に悩む事は、決して悪い事じゃない」


「……そう、なの?」


「偉そうに言ってるけど、オレはそうじゃなかったんだよ。何時だって戦う時みたいにピリピリして、ADに乗ってない時にも、誰かを殺すシステムになろうとしてた。――けど、そんなの間違いだ。


 戦う時以外に悩んでさ、本当にコレで良かったのかなって考える事は、止めちゃいけなかったんだ。


 そうして考えずに、ただ戦うだけのマシンになっちまったら、それこそ救いようのねぇバケモノだ。


 お前は、バケモノみたいに強い女から、ただ強い女になっただけだ。


お前と同じ戦場に立てるなら、それ以上に頼もしい事なんかない」



そうやって笑う織姫に、のどかは何だか、胸のモヤモヤが、少しだけ晴れた気がした。


完全ではないし、悩まなければいけない事はまだあるけれど、それでも少しは、晴れ晴れとした気分を感じる。



「……ねぇ、姫ちゃん」


「どうした」


「アタシ、姫ちゃんみたいに戦えば、もっと強くなれるかな?」


「? オレみたいってどういう事だ?」


「雷神みたいに戦うの。そうすれば、敵を殺す事は無いよね?」


「いや、無茶言うなよ。あんなの雷神以外に出来るワケ――出来る、なぁ、お前なら」



 言葉の途中から笑いが込み上がって来た織姫が、のどかの肩を叩く。



「出来る。お前はオレより強い女だ。秋風でも、雷神みたいに誰も殺さない、でもお前なりの戦いが出来るさ」


「そっか、それならアタシ、強いままだ! うん、何だか、イケる気がする!」



 ふん、と両手を胸の前でグッと握り、自分の中で出せた結論に満足したのどかは、織姫に笑顔で「ありがと姫ちゃんっ」と礼をしながら――自分の唇を、織姫の唇と、重ねた。



時間は短かったが、のどかは何だかそれだけで、何か満たされたような感覚に見舞われる。



「AD学園イチバン美少女の、ファーストキス、姫ちゃんにあげるねっ」


「なあ、皆キスしたがるけど、これ何の意味があるんだ?」


「へ?」


「神崎も楠もオースィニって奴もそうだけど、キスになんか意味でもあるのか?」


「……あ~、姫ちゃんはもーちょっと、色んな事覚えた方がいいねぇ」


「よくわかんねぇ。――ま、お前がスッキリできたなら、いいか」



 織姫は立ち上がり、最後に笑みだけを浮かべて、秋風のコックピットハッチから飛び降りていく。



「アタシ、これで戦えるっ」



 自分が決して、正しい選択をしたとは思えない。


殺し殺されの戦場で、敵を殺さずに自分だけが生き残るなんて、甘い選択なのかもしれない。


それでも、自分自身の気持ちを偽る事無く、戦う事の出来る方法であると、信じている。



「武器なんか無けりゃいいのに。そうやって格闘技だけして戦争すりゃ、皆幸せなのに、どうしてしないんだろ」



 何気なく呟いた言葉は、誰に聞かれるわけでもないし、聞かれた所で「バカの言葉だ」と言われると思う。


けれど、それでいい。



「バカだからこそ、真実に近い言葉を言えるのかもしれないよね」



彼女はそれでも信じてる。


そうして平和を志す者がいるだけで、真に平和へと近づく一歩になるのだと。

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