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戦いの前に-01

 これは、僕の夢だ。



『お父さん、今日もお仕事お疲れ様』



 娘、聖奈は高校の制服を着て、仕事から帰った僕を出迎えてくれる。フフっと笑う彼女は、妻に似て美人に育ったと思う。


 大きくなったことが嬉しくて、彼女の頭を撫でていると、四、五歳程度の幼い子供が、ひょっこりと顔を出した。



『おとうさん、おかえりなさいっ』



 小さな手と足を動かして、ちょこちょことこちらへやってくる楠。ニパッと笑うこの子を抱き、胸に抱きしめていると、廊下の奥より、ドアの向こう側に隠れ、ジッとこちらを見ている、織姫の姿が。



『……織姫、おいで』



 小さな織姫に言うと、彼はオズオズとしつつも、先ほどの楠と同じように、僕の足に抱き着き、そんな息子の態度すらもかわいく思えて、僕はギュッと、その小さな体を抱きしめる。



『……おかえり、父ちゃん』



 

何てことの無い、そんな日常が、僕には待っていた筈だったんだ。



――織姫と楠が一歳の誕生日を迎える、十二月二十四日。



私は新ソ連系テロ組織による爆発事件に巻き込まれ、命を落とすはずだった。


しかし、その身は完全に死んではおらず、新ソ連系テロ組織を牽引する軍需産業連携機構・通称【レイス】によって回収され、その脳を量子データとして保存、ヒューマン・ユニットの試作機にデータを落とし込む事により、僕は第二の人生を手に入れた。



『シューイチ。君に任せたいのは、レイスの運営、及び世界の均衡を保つ事だ』


「貴方は?」



 目を覚ました僕の頭に直接語り掛けるような言葉。


それは、僕と同じく脳を量子データとして保存されたヒューマン・ユニットの思考なのだろうと分かってはいたが、誰の言葉かはわからない。



『私は【レイス】の首領であり、この世界の在り様に心を痛める者。


 君が生み出した、ADという兵器は、人間が持つ闘争心を掻き立てるに相応しい、恐ろしい兵器だ。


 私は、この兵器という存在に恐怖し、しかし一つの可能性を見出した』


「可能性――それは」


『ADという兵器の存在によって、惰弱な人間は闘争本能を呼び覚ました。


 だが、それは言ってしまうのならば、全ての人間が人種・思想・教育に分け隔てなく、平等に均衡の保たれた、統一国家を作る為の土台となり得ると考えた』


「そうか――それが、貴方の目的」


『如何な手段を用いるか、それは君に委ねよう。私の様な老いた人間は、量子データの中で、君のやる事を見届けさせて貰う』


「僕にはその責任があるというのだな」


『そうだ。君はADという兵器を生み出し、そして――自分の子供を戦う為の兵器として生み出した、業を背負うべき人間だからな』


「雷神プロジェクトは、織姫と楠が幸せに暮らす為の世界を作る為に生み出した。それを業というのか」


『業だろう。――君は、君の勝手な都合で、君が愛おしむべき子供を、生きた兵器として生み出したのだ。それを業と言わず何という』



 言い返す事が出来ない自分を、恥じた。


僕は何て思い違いを、何という業を背負ってしまったのか。


それを、悔やむ事しか出来ない位ならば――



「僕は、この世界を統一する」


『そうだ。人間社会を統一し、真に平和な世界を作り上げろ』


「ああ、そうすればきっと――」



 そうして戦い続け、平和な世界を作り上げたら、きっと織姫や楠、聖奈の三人は、幸せに暮らしていく事が出来るだろう。


何者の幸せを脅かす事無く、自分達の身を戦いに投じる事も無く、三人は、きっと幸せな世界に生きる事が、出来るのだろう。



『お前に、そんな事を願う資格なんかない』



 織姫の声が、聞こえた。


振り返ると、そこには幾百の死体を重ねた山の頂きに立ち、今まさに銃のトリガーを引いた、血に塗れた織姫の姿が。



『その先を願うより前に、お前は自分のやり方に疑問を持つべきだったんだ』


「織、……姫?」


『見ろよ、このオレが積み上げた屍の山を。


 ――お前が、幸せに暮らせる世界を作る為って生み出した、この兵器としての体は、こんなにも人を殺す事に慣れちまったんだぜ』


「織姫、僕は……僕は……っ」


『お前の言う世界に平和が待っていたとしても、オレはお前の事なんか認めない。


 お前のやり方は間違っている。お前は、オレが許さない。楠にも、姉ちゃんにも、二度と近づけさせない。



 ――オレは、お前の存在を、否定する』



**



スリープモード解除。急いで意識を保ち、短い呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせる。


ヒューマン・ユニットであろうと、その脳データが人間のそれであるからして、思考回路も持ち得るし、言ってしまえば感情だってある。


結果として夢を見る事もあって、僕は度々こうして思考の海に漂う事となるのだが――それが何時も悪夢な理由は、何故なのだろう。



「……僕は、間違ってない、間違ってない、ハズだ……っ」



 現実の織姫も、夢の中の織姫も――僕の事を蔑む目で見てくる。


その目は――あのリントヴルムと、同じ目だった。



人を殺す兵士であり、戦う事を良しとする――戦闘狂と。

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