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リェータ-12

 踵を返し、群れから離れていく織姫の秋風。


そして、その機体を追いかけようとする量産型アルトアリスの前に――今、試作一号機より譲り受けた大型ブレイドを地面へ刺し込んだ試作五号機が、立ち塞がった。



『オオッと、こッから先は行き止まりだゼ、ヴィスナーちゃん達』


『リントヴルム、この狂人が……ッ!』


『お前一人でアタシらを止める事が出来ると思ってんの!?』



 今、森を抜けて総勢三十数機弱となった、量産型アルトアリスの群れを前にして。



 リントヴルムは、笑みを無くし、侮蔑の表情を、ヴィスナー達の駆る、機体へ向ける。



『アァ――お前らじゃオレの欲情を満たすこたァ出来ねェンだよ』



 機体に掛けられていたリミッターを全て解除し、機体の反応度と反映度を、普段のより数度低い一度に設定したリントヴルムは、大型ブレイドを抜き放つと、そのまま群れの中へ突撃を開始した。



**



量産型アルトアリスの群れから離れた、オースィニの搭乗する一号機、ズーウェイが搭乗する明宮姉妹を乗せた三号機、そして城坂織姫が登場する秋風が、福島第二原発の見える海岸に立つ。


この辺りは完全自動化が進んだ地区で、人は誰もいないが、しかし第二原発に近づいてしまうと問題になりかねないので、少しだけ離れた場所にいる。


 オースィニが秋風と通信を取り、パイロットである織姫もそれに応じる。



『オリヒメくん、ここから三人を君の機体に乗せ、飛んでいけるかい?』


『可能だ。――けど、三人って事は、アンタは自分の機体で飛ぶのか?』


『否――私は、ここでお別れだ』



 コックピットハッチを開け、海風の感じる外へと身体を出すオースィニ。


織姫も、ズーウェイも哨も梢も、コックピットから身体を出して海岸に立ち、哨は織姫へと駆け、抱き着いた。



「姫ちゃん、ホントに姫ちゃんだっ」


「助けるのが遅くなって、ゴメン。哨」


「ううん……っ、いいの、友達も出来て、ボクは寂しくなかったもんっ」



 涙を流しながらも、しかし怖くは無かったと強がる彼女の体をギュッと一度抱きしめた織姫は、彼女を離すとオースィニへと近づき、手を差し伸べた。



「リントヴルムにも言ったけど、今回はお前たちのおかげで助かった」


「いいや。彼が行動し、私はその行動に乗っかっただけさ」


「それでもだ。……姉ちゃんから聞いた。お前は、子供の為に行動してくれたって」


「シロサカ・セイナは大袈裟に言ってるだけだよ。私は、ただ自分勝手なだけさ」


「オレは――平和って奴は、一人一人がこうして、言葉を投げ合って、そうして作り上げていくモンだと、最近気づいた」



 彼の言葉に、オースィニは顔を上げる。



「全部を平和にする事なんか出来やしない。それが出来るとしたら、あの城坂修一のように、過激な思想や思考が入り混じった、革命モドキの方法しかない。人が人を信じて、話しをして、語り合うからこそ、得難い平和って奴がようやく掴めるんだって」


「ああ――そうかも、しれないね」



 織姫の手を取り、彼を引っ張って、ギュッと抱きしめたオースィニに、哨がギョッとするけれど、しかしオースィニは、決して彼の体を離さない。



「やっぱり、君たち子供は尊いよ。世界を見渡すのも、君達子供のような広い視野が無ければ出来ない」


「大人じゃなきゃ、広く世界は見渡せても、何も出来ないよ」


「いいや、違う。子供に選択肢を多く与える為に、私達大人は戦わなければならない。


 例え狭い視野だとしても、その先にある選択肢を子供に多く提示する為に」


「そうして得た選択肢を子供に与えて、子供が多くを考えられるようになったら」


「ああ。それが教育と言うモノで……君のお姉さんが、目指している平和さ」



 織姫の体を離し、彼の唇に軽く口づけをしたオースィニ。


 今度こそ哨が「うがあああっ」と叫んだが、彼女はクスクスと笑い、織姫に背を向け、ズーウェイに向けて、何かを投げた。


それは、注射式の投与剤。彼女達超兵士が、生き長らえる為に必要な薬だ。



「それだけしかネコババできなかったが、それでしばらくは持つだろう?」


「……本当に、ありがとう」


「リェータ君――いや、君は確か、ズーウェイと言うんだったな」


「ええ」


「君は、確かに生まれは過酷だったかもしれない。その後の人生は、大人たちの導きにより、凄惨なモノだったかもしれない。


 ……それでも、君はこうして、撃って撃たれての戦場だけじゃなく、大切な友達や仲間を得る事が出来たんだ。



広く、世界を見渡しなさい。それが、これから始まる、本当の人生だ」



試作一号機に搭乗し、トリプルD駆動でその場から飛び、どこかへと向かっていく彼女の機体。


彼女は決して言わなかったけれど、そうして飛ぶことによって、少しでもレイスから目を引くために行動してくれたのだろう。



 ――なら、彼女の想いは無駄にできない。



 織姫は、彼女と重ねた唇にそっと指を乗せて、笑いながら、残った三人の元へ。



「秋風に乗ってくれ。すぐにひとひらへ飛ぶ」


「そ、それより姫ちゃんっ! 姫ちゃんはああいう大人の女の人がタイプなの!? ぼ、ボク後数年すればあんな感じになるから、それまで待ってくれる!?」


「緊張感を持て哨……」


「全くこの子は……」


「ミハリ、どうしてそんなに慌ててるの?」



 四人の喧騒は、さざ波の音で、掻き消える。

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