リェータ-11
前方には三十機近い量産型アルトアリスと、修一の搭乗した風神。
修一のパイロット能力自体は低くとも、その超高機動を実現できるヒューマン・ユニットである彼が搭乗すれば、その力は確かに脅威となる。
さらに、背後からは数が把握できない量産型アルトアリスが、今もなお近づいてきている。
ズーウェイは息を呑みながら、今まさに隣に立った一号機と五号機を見据える。
オースィニもリントヴルムも、そのパイロット能力は極めて高い。
人類最強レベルのパイロットと呼んでも過言ではないが、しかしそれでも、数の利と疲労が問題だ。
――何か、この状況を打破できる、一手が欲しい。
そう、彼女達が息を呑んだ、その時だ。
接近警報が、全機へ一斉に入り込んだ。
先ほどまで、敵味方識別反応は働いていなかった。何せその場にいる全機は、元々レイスが有する機体だ。敵味方識別は総じて味方の反応となる。
だが、ここにきて、初めて敵識別を行ったという事は――
量産型アルトアリスに向けて、振り込まれた右脚部の振り込み。
蹴り飛ばされる一機と、そのまま量産型アルトアリスの間を縫うように駆ける、その一機が、今風神の背中を、強く殴りつける。
『城坂、修一ィ――ッ!!』
『織姫――ッ!?』
突如として現れた城坂織姫の搭乗した、秋風ハイジェットパック装備は、風神の背面を殴りつけた後に隣接する一号機、三号機、五号機の前に立ち塞がり、声をあげる。
『哨、梢さん、居るか!?』
『――姫ちゃん、居るよ! ボク達、ココッ!』
彼の言葉に、涙を流しながら叫ぶ哨の声を聴いた織姫は、安堵の息を吐くと同時に、自身の秋風へと近づく五号機へ通信を繋げる。
『お前、リントヴルムか』
『おうさ。ミハリちゃんとコズエちゃんをオメェ等にお返ししたくてなァ。……アト、オメェの父親、オレと合わねぇわ』
『だろうと思ったよ。――オレは武器が使えない。手伝え』
『おうよ。トドメは任せろぃ』
量産型アルトアリスが、その掌速射砲を構えた事が合図となった。
秋風と試作五号機がスラスターを吹かせると同時に空へと舞い上がると、量産型の群れへと急降下を開始する。
放たれる弾丸を、まるで意に介していないとでもいう様に駆け抜けた二機は、その腕部を、脚部を振り回し、近くにいる機体をひたすらに殴打するという、控え目に言っても現代兵器とは思えぬ駆動によって、蹴散らす光景が、そこにはある。
『何なの、何なのよコイツらっ』
『実弾が怖くないの!?』
『お前ら、アタシらと違って、死んだら終わりだって、分かってないの!?』
通信を介して聞こえてくる、ヴィスナーの言葉に、織姫とリントヴルムは、鼻で笑いながら『わかってねェな!』と言葉を重ねる。
『実弾なンざなァ――ッ!!』
『当たらなけりゃ、無いのと一緒だッてんだ――ッ!!』
『……無茶苦茶言うわね』
『本当にね――いくよ、リェータくん』
オースィニの駆る試作一号機が、三号機の手を引く形で進行を開始。
そちらへ速射砲を向けようとする機体があれば一号機が切り裂き、更には戦場を混乱させる秋風と五号機が、無数にその拳を振るっている。
『織姫ェ……ッ!』
しかし、そんな混戦の中、修一が風神で動く。
量産型アルトアリスの事を見えていないかのように、そのトリガーを引き、55㎜機銃の銃弾をばら撒きつつ、その拳を秋風へと振り込む。
だが、織姫の秋風は機体をターンさせながら拳を避けつつ、風神の頭部と秋風の頭部をぶつけ合わせる。
『何故だ――何故分かってくれないんだ、織姫ッ! 僕はお前たち子供の為に、出来る事をと思って』
『お前と話す事は何も無いと言っただろうがッ! 下がってろ三下――ッ!』
如何に風神と言う超高性能機体に搭乗していようと、城坂修一と言う男のパイロット能力は、織姫という歴戦の兵士と比べれば、それこそ大人と子供ほどの実力差が存在する。
放つ銃弾を避けながら、織姫は秋風の拳を振るう。
拉げていく拳、しかし手は止まらない。
今すぐにこいつを、ここで殺すという殺意がそこには存在し、修一は現実を受け入れる事が出来ないと言わんばかりに、叫ぶ。
『なぜ、何故――ェ!』
残る敵数は、風神を含めても二十三機。そして、哨と梢が搭乗する試作三号機と、それを連れて走る試作一号機は群れを抜けた。
それを確認すると、リントヴルムが秋風と取っ組み合う風神を蹴り飛ばし、織姫と接触回線で通信を取る。
『オメェは先行け』
『リントヴルム、お前は』
『オレらはそういう仲じゃねェだろ? 気にすンな。
――ミハリちゃんとコズエちゃん、そしてリェータちゃんを逃がす。それがオレの目的だ』
『……お前は、クズだけど』
『あァ』
『今回はお前に礼を言わないとな』
『なら――次会った時、決着を付けてくれ。ンじゃねェと、ジョーブツ出来やしねェ』
『――オレも、お前と決着を付けたいと思ってる』




