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リェータ-06

明宮哨と明宮梢の両名は、名も場所もわからぬUIGにやってくると、すぐに自室として割り当てられた部屋に入れられ、次の作業がやってくるまでの間、待機を命じられていた。


前にいた樺太UIGで、何があったかはわからない。四六との交戦という事は知っているが、四六と交戦した末に、自分の知る誰かが死んだり、怪我をしているかもしれないと考えただけで、二者は言葉を発する事も怖かった。


そんな二人の部屋をノックする音が聞こえる。


哨が声をあげそうになるも、梢が彼女の口を押えて声を止め、ノックした者からの言葉を待つ。



『リントヴルムだ。リェータちゃんもいる』


「ズーウェイ……っ」


「ま」



 待ちなさい、と梢が止めようとするも、哨は梢の腕を振り払い、ドアを開ける。


リントヴルムは開けられたドアにリェータの体を押し込み、自身は周りを警戒しつつ入室。



「ズーウェイ、無事だったんだね、良かった……っ」



 涙を流しながらリェータ――ズーウェイの体を抱きしめ、彼女の無事を喜ぶ哨だったが、何やら様子がおかしいと感じた梢は、リントヴルムへ視線を送る。



「ミハリちゃん、君に二つ言わなきゃなンねェ事がある」


「? あの、何です?」



「一つ。リェータちゃんの搭乗したフウジンのせいで、フルフレームのパイロットは死んだかもしれねェ。生死は確認できてねェけどな。


 二つ。反対にフルフレームの砲撃で、ズィマーちゃんが死ンだ。こっちは確認もしてる」



 沈黙が訪れた。


梢がリントヴルムを強く睨むも、しかし彼は抱き合う哨とズーウェイを見据えたままだ。



「……そ、っか」



 なんて言葉をかければいいのか、哨は分からないと言わんばかりに、ズーウェイの頭を一度撫でた後、目と目を合わせ、彼女の事をしっかりと見据える。



「ホントなの、ズーウェイ」


「……ええ、本当。でも、貴方に知らせるつもり、無かった」


「どうして? ボク、ズーメイさんとお話出来てないけど、それでも悲しいよ。だって、ボクの知ってる人が、ボクの知ってる人に殺されたんだよ?」


「だからよ。……私も、フルフレームのパイロット、クゼ・リョージが、憎くて、憎くて、殺したくて殺したくて、しょうがないの」


「それは、しょうがないよ。だって、お姉さんを、殺されたんだもん。ボクもお姉ちゃんを殺されたら、相手を殺したくて殺したくて、しょうがないと思う」


「……ミハリ、怒らないの? 私は、貴女が殺さないでって言った、貴女のトモダチを、殺したくて、殺したくて堪らないのに。


 貴女のトモダチなのに、私はそんな事どうでもいいって思える位、初めてこんなに感じた、どす黒い感情を、貴女に暴露してるのに……ッ」



 ボロボロと涙を流すズーウェイの小さな体を、哨はもう一度抱きしめる。


先ほどよりも強く、細く繊細なズーウェイの体が、潰れるかもしれないと思えるくらいに。



「怒らないよ。そんなの、人間が持ってる当たり前の感情だもん。ボクにそれを、怒る権利なんかない。


 戦争は、いつ誰が死んだって、おかしくなんかないんだ。


 ちょっとした間違いで先輩が死んで、ズーメイさんが生き残る未来だってあったかもしれないし、どっちも死んじゃう未来だって、あったかもしれない。もしかしたら、久世先輩はもう死んじゃってるかもしれないし。


 勿論、受け入れる事は難しいし、いざボクもその時が来たら、どうするのかなんか、わかんないけど……でも、受け入れるしかないんだ。


だって、受け入れなかったら、その人が戻ってくるわけでも無いんだもん。


 生き残ったボク達は、受け入れて、その後にどうするのか、しっかりと決めないと」



 ズーウェイはどうしたい?


哨は、彼女の涙を拭いながら、そう聞いた。



「どう、したい……?」


「うん。久世先輩を殺したくてしょうがないなら、殺してもいいと思う」



 でも、と。そこで初めて哨は、ズーウェイに触れる手を、離す。



「そうしたら今度は、ボクとお姉ちゃんが、ズーウェイを殺したくなるかもしれない。


 ……実際になってみないと分からないけど、少なくともボクは、ズーウェイの事を許せないと思う」


「でも、じゃあ何で殺していいなんて……ッ」


「それは誰かに決められる事じゃない。ボクが決める事じゃないし、ズーウェイが自分の中でどう決着を付けたいか、それを自分で考えなきゃいけないんだ。


 でも、久世先輩がもしズーウェイに殺されたら、今度はボクやお姉ちゃんが考える番。


 復讐を決意したり、ズーウェイの事を一生恨んでいく事も出来るんだ。


ボク、復讐はいけない事だなんて思わない。その人が今後の人生、前を向いて歩いていくために必要だったら、どんな些細な復讐だってすればいい。


 でも、その後には、自分も復讐される立場に立つんだって、その覚悟が、ズーウェイにはある?」



ある、とも。ない、とも言えなかった。


ズーウェイはただ涙を流して、哨の胸に飛び込み、彼女も決してそれを拒みはしない。

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