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オースィニ-11

 楠が、今膝を落とした。


あまりの出来事に、何も言葉を発せないと言わんばかりに、口をパクパクと動かしながら、高まる動悸を抑えるように、胸を押さえた。



「……その、大量の親父を模った人造人間軍団が、量産型風神を操るって事か?」


「違うよ。僕のパイロット能力はそれ程高くは無いからね。搭乗するのは、アルトアリス試作二号機のパイロット・ヴィスナーこと、レベジ・アヴドーチカ・ケレンスキーだ」



 先ほどオレ達と交戦した機体のパイロットは、確かにパイロット能力も高かった。


そして、この流れでそのパイロットを紹介したという事は。



「彼女も、僕と同じくヒューマン・ユニットさ。ただ彼女の場合は少し特殊でね。先ほどまで『脳そのものを所有する人間の彼女』と『ヒューマン・ユニットである彼女』の二種類がいた」


「先ほどまで……?」


「人間である彼女は死んだ、というより僕が殺したよ。自分の正体を知って発狂されても困るから」



 サラリと言いのけた親父の言葉と共に、今いる部屋の扉が開かれた。


銀色の頭髪をなびかせた少女が、頭を撃たれて死んでいる、同じ顔の少女を抱えて現れる。


 楠が見ない様に彼女の顔を抱きしめ、オレは親父を睨む。



「そんなモン、楠に見せんな……ッ!」


「……そうだね。織姫はともかく、楠に死体を見せるのは僕も好ましくない」



 銀髪の少女に目配せした親父と、そんな彼の言いたい事が分かったように、フンと鼻を鳴らした少女。



「シロサカ・クスノキは本当に甘っちょろい雌豚ね」


「おい」


「戦場に自分で立つって決めておいて、いざ死体を見たら怖気づくの? 何それ、ホント意味わかんない。


 そんな生半可な覚悟で戦場に出てた奴に、このアタシは今まで負けてたっての?」



 ボトッ、と。


自分と同じ顔、同じ体をした少女の死体を床に落とし、その顔面を踏みつける。



「あは、でもいいじゃん! これでアタシはもっと強い身体を手に入れたんだッ!


 こんな生身で、邪魔な肉体なんかいらないじゃんっ! むしろ何で生かしてたのよシューイチッ! アンタもさぞ邪魔だったんでしょねぇ!?」


「邪魔じゃなかったよ。自分の正体や、お父様の事を知ろうとしなければ、試作二号機のパイロットを続けて欲しい能力は有していたし、子供を殺す事に抵抗がない訳じゃない」


「ハッ、そうね。アタシらヒューマン・ユニットにも感情はあるもんねぇ。


 データの思考とは言っても脳内情報をそのまま保管してそこから命令を送っているだけだから、思考回路は人間そのものだし!


 でもAIに自動操縦を任せるんじゃなくて、アタシらヒューマン・ユニットが搭乗すれば、肉体強度も考えなくていいし、人間と同じく感覚で行動も可能!」



 死体の顔面に向けて、強くつま先を振り込んだ少女。


首の骨が折れる様な音と共に、楠が思わず「や」と小さく呟き、耳を塞ぐ。



「ていうかさぁ、もうそんなガキ二人もいらないっしょ? 何で生かしてるワケ?」


「風神の戦闘データだけでは量産するにあたっての情報不足だからだ。雷神にはこれからも戦ってもらわなければならない」


「ならどうしてアタシらを使って風神のテストせずに、ズィマーとリェータなんていうヤク中使ったのよ?」


「多様性ある戦闘データが欲しかったからだよ。まぁ、本音を言えばもう少し持つと思ったんだが、思いのほか人間の体が脆いという事は分かったのは収穫だ。ヒューマン・ユニットの強度参考にも出来る」



 少女――ヴィスナーと言うコードネームであった彼女の死体を抱きかかえた親父が、ヒューマン・ユニットであるヴィスナーの入って来た道へ行き、オレ達へ言う。



「このままここにいなさい。僕達は後五分で撤収するから、その間に突入するだろうアーミー隊が救出に来るだろう」


「……アンタは、人じゃないんだな」


「僕は非人間的だとは思うけれど、人間だよ。言葉を話し、思考もする」


「違う。お前の心は、もう人間じゃない」


「……織姫」



「ああ、遠藤二佐が何を言いたかったのか、ようやくわかった。


 確かに、人を殺すのに慣れちゃいけなかったんだ。


 それは、人を殺す手段に慣れるかどうかじゃなくて、人を殺さないと先に進めない、なんて強迫観念に慣れる事だ。


お前は、自分の目的を果たす為の手段を、もう選んでなんかない。


それが非人間的だと知っていても、それが必要だからって思考停止して、人を殺す」



「織姫、聞いてくれ、僕は」



「その女を殺す以外に道はあっただろうに。


 邪魔だったから殺して、その罪の意識をただ『抵抗がない訳じゃない』なんて言葉で着飾るだけ。


 ――断言してやるよ。お前はこれから先、どれだけ死体が積み上がろうと、その先に必ず平和があるから、その為の犠牲だと割り切る。


そんなのは優しさでもなんでもない、ただの思考停止だ。


 そんなお前が作り上げようとする未来に、価値なんかない。


――お前に、楠の父は、名乗らせない」



 もう、親父と呼びたくもない。


城坂修一と言うヒューマン・ユニットに、オレの言ったどう届いたかは、わからない。


けれど、目を見開いて、僅かに手を上げて、その手をオレ達に向けて歩み寄って来たので、払いのけてやる。



「僕は……僕は……っ」


「もう、話す事なんかない。楠に触るな」


「織姫、楠……僕は、僕はお前たちや、聖奈が、幸せに暮らせる世界を……ッ」



 何度手を伸ばしてきても、オレもその度に何度も払いのける。


オレにも触れさせないし、楠に触れようものなら、どんな手を使ったってぶっ殺してやる。



「僕は――ッ!」



 最後に叫び、死体を放って走り、逃げていく城坂修一の姿を――オレは最後まで見届けた。

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