オースィニ-10
「雷神も姫ちゃんも、ちゃんと返してくれるなら、アンタが今までにした事は許してあげる」
「これからの事は許してくれないよね」
「当たり前よ。それはそれ、コレはコレ」
「雷神も、オリヒメ君もクスノキ君も、シューイチにとっては必要な存在だ。少なくとも命に問題は無いだろう」
「あっそ。……アンタも、仲間の所へ、帰んな」
「そうさせて貰うよ」
アルトアリスへと搭乗したオースィニと、そのままUIGの内部へと戻っていくアルトアリス。
聖奈は深く息を吐いて、今近づいてくる少女の頭を、撫でる。
「のどかは無事でよかった」
「でも、久世が……久世が……っ」
ボロボロと涙を流す彼女は珍しい。
けれど、彼女は元々ADに搭乗して戦う事が好きなだけで、外道でも、畜生でもない。
「姫ちゃんはどうしてるか、わかる?」
「分からない……けど、UIGの地下へ落ちてった光景だけは見えて、その後は地下を塞ぐシャッターも閉まっちゃったし、リントヴルムは追いかけられないと思う」
「なら、一度私達も艦へ帰投しましょう。あの女が言ってる事を信じるなら、お父さんはきっと姫ちゃんと楠ちゃん……そして雷神も無事に返すとは思う」
「うん……」
「大丈夫。あの二人は強い子よ。何せ私の弟と妹だもん」
聖奈とのどかは、それぞれ自身の秋風へ搭乗し、聖奈機がフルフレームを抱える。
そのまま崖から跳んで滑空し、艦へと帰投するのだった。
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頭が痛い。
オレは、今まで聞いた話を頭の中で繰り返す。
親父は、量産型風神を用いて、統合国家設立に反する国家へのテロ行為を徹底する事により、反統合国家という存在を無くすという。
確かに、理論上不可能ではないかもしれない。
統合国家設立によって問題となり得るアメリカ・ロシア・中京は必ずこの話に乗ってくる。
問題は反統合国家となり得る国々に対する攻撃行動が成功するか否かだが、仮にカタログスペックを引き出せる量産型風神が十機でもいれば、国家重要戦略地へ襲撃を行い、即座に鎮圧する事も難しくはない。
――だが、問題はそのパイロットだ。
「お父さん、パイロットをどうするつもり?」
楠も、オレと同じ結論に辿り着いたようで、そこで今までの困惑顔ではなく、キッと表情を引き締める。
「AIでは、同等の実力を持ち得る、生身のパイロットに勝利する事は出来ない。二人はそう言ったね。
ああ、その考えは正しい。けれど、それは見方を変えれば、こう言う事にならないかな?
――生身の人間と同様の知能や思考を持つ自動操縦システムならばどうだろう」
楠も、オレも、呆然とするしか無かった。
何を言っているのか、理解できなかったのだ。
「何を」
「何を言ってるの、お父さん」
理解が及ぶと考えていなかっただろう親父は、クスリと笑いながら、自分の左腕を右手で掴み――引き千切った。
何が起こっているかわからず、一瞬だけ目を逸らした楠。
しかし、オレは目を逸らしていない。
いや、逸らす事など、出来はしない。
それは、引き千切られたのではない。
接続を解除したのだ
「親父……アンタ、まさか……ッ!」
「誤解をされているかもしれないが、僕は機械そのものではないよ。
まぁ、非人間的だとは思うけれど、ちゃんと僕の脳は並列処理コンピュータ内にデータとして保存されているし、意志も存在する。
食事は出来ないし、する必要もないけれど、夢は見る」
親父の体は、機械によって構成されていた。
先ほど引き千切ったように見えた腕は接続を解除された腕部パーツで、今それをつなぎ合わせると自動接続され、一秒の時間もかけずに再び稼働を開始した。
「機械人間――【ヒューマン・ユニット】
脳内情報をそのまま量子PC上に保管し、そこからこの肉体に命令を送るんだ。
命令自体は量子では無くてデータだけれど、その程度であれば500mbps程度の速度で通信が出来れば問題ない。
脳にあたる場所はオフラインでも活動が出来るようにするデータ保管庫と受信用機材が詰まっているし、言葉は人工声帯における発声によって会話も問題ない。他者の言葉を聞くマイクも集音性が高いよ」
「……は。もう、笑うしかねぇな。動力はどうなってんだ? それ」
思わず乾いた笑いしかオレが訪ねると、親父も苦笑を溢しながら「バッテリー駆動さ」と答えてくれる。
「勉強しているかな。僕と霜山彰は元々ADなんてロボット兵器じゃなくて、パワードスーツの開発をする予定だったんだよ。
けれど大きくても二メートル台のパワードスーツに搭載できるバッテリーなんかたかが知れてるという事で、機体を大型化させたのがADだ」
「で? そこから何十年と経った今は、その小型化にも成功したってか?」
「ああ。最大稼働時間はスリープモードを一日八時間と仮定して約15日。
身体は既に三十機が製造されていて、いざという破損にも対応できるようにもしているよ」




