オースィニ-07
「あり得ない。国連へ提出した僕が言うのも何だけれど、連邦同盟では加盟メリットが少なすぎる」
「そ、そうかな? 確かに国家領土や国力に応じて条約規定が生まれちゃうけど、その分新型ADとかの開発情報がコレから入ってくるんだし、軍事力レベルは各国で適切に保つことが出来るんじゃ」
「保つだけじゃダメなんだよ。相手より上を行き、相手を押さえつけるレベルの軍事力を保持しなきゃ意味がない」
「その通りだ。それに連邦同盟には欠陥も多い。
ガントレットが行ったように、ADと人員を連邦同盟に加盟していない民間軍事企業に流すだけで兵力問題は解決するからね。
むしろ自国の開発情報を持っていかれる必要性を感じないだろう」
その辺を律儀に守っているのは日本だけだよ、と笑う親父の言葉に、オレも頷く。
「なら織姫なら、どうやってこれらの隔たりを壊す?」
「まぁ、理想であるなら連合国家の設立だろうな」
「ほう」
笑う親父、顔を上げる楠。
「連合国家って事は、全部の国々をまとめ上げて、一つの国家にしちゃおうって事?」
「流石に地球全土を一つの国家にする事は難しいから、例えば大まかに三つの連合国家に分けて、各国々を管理する必要はあるだろうけどな」
ただ、これにも問題は多い。
例えば言語・宗教・思想・教育だ。
これらの要素は、それこそ宗教戦争だったり、争いの火種となり得る重要な要素だ。
これらを無視していきなり連合国家を設立する事は難しいし、どこに主権を握らせるかという問題にも繋がる。
そうなると、騒ぎ出す国はどこだろう。
アメリカ・ロシア・中京共栄国、こんな所か。
日本はアメリカの傀儡だからアメリカ側に付くだろうし、現状の国力や軍事力を鑑みて、この三国以外が積極的に騒ぐとも思えない。
「だが正しいな。真に国家間戦争を無くすとすれば、後思いつくとしたらそれしかない」
「でも、それまでにどれだけ大きな戦争が起こるか。だって、国々の境を無くす事になっちゃうんだから、絶対に反発は必至だよ」
「その通り。どの様な形であれ戦争は避けられまい」
それが経済面での戦争になるのか、それともサイバー戦争となるのか、それとも直接的な攻撃になるのか、それは分からないけれど、言い切っても問題ない。
何より、先ほど挙げた宗教・思想の二つは一番厄介だ。
宗教戦争は異なる宗教同士の戦争だけじゃない。
宗教と政治や利権が絡み合い、複雑化したが故に起こり得るし、それ以上に厄介なのは、その宗教・思想に暴徒化した人間そのものだ。
今でこそテロ組織の多くは国家によって手引きされて作り上げられた組織がほとんどだが、現在に至っても宗教派閥による過激テロ組織はある。
何だったらオレが現役の頃に一番多く鎮圧した戦場は、宗教紛争による抗争だった。
「けれど、僕も織姫に賛成だ。――現状、戦争を無くす方法として最適なのは、やはり連合国家による国家間の隔たりを無くす事だ」
「正気か? 何十年、いや百年の時間は必要になる」
「必要ないさ――随分と過激な方法になるがね」
先ほどまで、世界地図を表示していたプロジェクターが、違う画像を表示した。
それは、以前にも見た雷神と、風神のスペック表である。
「最終的に僕が目指す世界は、完全に統合を果たした、統合国家の設立だ。領土・民族・宗教の垣根を超え、人類が地球人という人種となる」
「その為に雷神プロジェクトと風神プロジェクトを使うってのか?」
「少し語弊があるけれど、その通りだ。勿論十年単位で時間は必要かもしれないが、必ず成功を収める事が出来ると言う自信がある」
言い切った。
けど……正直、その言い切り方には、恐怖すら感じる。
人間は、失敗しないと思っている人間こそ恐ろしいんだ。
どんなにリスクが伴うヤバい事だって、失敗しないからと恐怖に駆られる事もなく、突き進んでしまう。
「……どうやって設立するってんだ?」
「簡単だ――武力による統一だよ」
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『武力による、統一……?』
城坂聖奈と村上明久は、アルトアリス試作一号機を駆るオースィニから、修一の語る内容と同じ物を聞かされていた。
『ちょっと待って。お父さんは、国家間の垣根を超えた統合国家の設立を目指してんのよね?』
『その通りだ』
『お父さん、血迷ったの? そんなのが武力統一なんかでどうにかなるとでも?』
『なるだろうね。何せ将来的には風神の量産によって戦力としては十分となる』
『いや、オレも良く分かってないっす。その辺の事、もっと詳しく聞いても良いっすか?』
良いだろう、と言ったオースィニが、無線通信で二人に書類データを渡した。
それは、量産型風神の基礎設計内容などが書かれた書類だったが、しかし試作機である風神と、ほとんど内容としては変わらない。
強いて言えばパイロットの部分が白紙となっている位か。




