オースィニ-05
ADという存在は、確かに人と人が争う為にうってつけの兵器だろう。
人の形をしていて、人と同じ可動域を持ち、人以上の力を持つけれど、それは人が意思を持って操縦しなければ、動かす事は出来ない。
自動操縦もあるけれど、現状は定型の行動に沿ってでしか、それを成せない。
そして、相対する物もADであれば、それは人と人の殺し合いと同義であろう。
人は、それを無意識の内に感じ取っていたのだろう。
だからこそ、ADという兵器はこれまでの発展を遂げたのだ。
「で、でも人が人を殺すなんて、それは本来やってはいけない事でしょう。それを、無意識の内に、誰もが望むなんて事、無い」
「やってはいけない事……そうだね、本来はそうだ。けれど、それは織姫の前で言う事では無いな」
ハッと、楠が抱き着くオレの事を見る。
けど、オレはそんな事を気にしていない。
「事実だろ。人が人を殺すなんて、本来はあっちゃいけない。けれど、オレはそうしなければ生き残る事が出来なかったからした。それだけだ」
「そう、それも事実だ。楠、覚えておきなさい。確かに人が人を殺すなんて、あっちゃいけない事だ。
けれど、それを成さなければ生きていけない人種もいるし……昔から人間と言う存在は、闘争によって発展を遂げて来た生物だ」
「だから、これから先、争いを止める事は出来ない――そう言いたいのか?」
「その通りだ」
親父は言い切った。
雷神なんて、平和に戦える兵器という夢物語を作り、さらには風神なんてもんを「世界平和の為」と言って作り上げた張本人が、何を言う。
「なら、アンタの目的は何だ?」
「世界平和だ」
「矛盾してる。争いを止める事は出来ないって言ったのはアンタだろ」
「争いを完全に止める事なんか、出来やしない――けれど、争いの火種を事前に鎮火し、可能な限り小火で止める事は出来る」
親父は、壁に備えられていたスイッチを入れた。
壁の一面が開かれ、ガラス越しに向こう側を見えるようにし、オレと楠は、そちらを注視した。
一面に、紺色のAD兵器がズラリと並んでいる。
その数は、約五十はあるだろうか。
「先ほど、二人はアルトアリス・試作二号機と交戦し、ここへ落ちて来ただろう。あの機体さ」
「アルトアリスを量産して、テロ組織に売り渡そうってのか?」
「そんな事をすれば、より多くの死者が出るだけだ。テロ組織の軍事力は適切に管理しなければならない。
その為に僕の前にレイスを率いていた人物は、レイスを軍需産業連携機構として作り上げた」
「ちょっと待って、レイスは新ソ連系テロ組織や国家を裏で操っている組織じゃないの?」
「その理解で概ね間違っていないが、操る理由が誤解されている。
レイスは技術を目的としたものではなく、新ソ連系テロ組織の軍事力を管理する事によって、大きな紛争を止める為に存在する」
レイスとは、元々軍需産業連携機構として、新ソ連系テロ組織を運用する国家とパイプを持ち得、資金援助を行う事で技術の取得を行わせていると考えられていた。
だが、実際には違うというのだ。
「レイスは新ソ連系テロ組織を有する国家へと資金援助を行い、冷戦機構を用いた技術奪取を行わせる。
そして受け取った技術を吟味し、適度な軍事力となるように調整し、新技術を開発、新ソ連系国家へと横流す……。
こうすれば連邦加盟国家と新ソ連系国家のパワーバランスは常に七対三程度の割合に留める事が出来る。
双方ともに適切な軍事力を有する事によって、大規模な戦争へと発展する事は無い。それこそ第三次世界大戦なんてものは起こり得ない」
確かに、正しい考え方だ。
双方共に適切な軍事力があれば、言ってしまうと『互いにリスクのある戦争』を避ける事に繋がる。
小規模な紛争はなくせないまでも、あくまで大きな火種を根絶やしにする事は出来るのだ。
「じゃああの機体は何だ? アルトアリス型のカタログスペックはどうか知らないが、それでも秋風と同等程度はありそうな機体だ。
あんなのが量産されれば、練度の低いパイロットでもポンプ付きと対等に渡り合えるようになってしまう。
それこそ七対三の割合が、六対四……いや、場合によっては五対五の割合になっても不思議じゃない」
「だから、あの機体はそういう意図で開発されたものではないし、あくまで前段階だ」
「前段階、だと?」
「最終的には、風神の量産型を大量生産する予定だ。
風神を建造させた理由も、雷神に多くの戦闘をさせたのも、この為さ」
親父は一体、何を言ってるんだ?
確かに、以前AD学園で交流戦があった時。
親父はオレ達へ雷神に搭乗して交流戦に参加させ、しかも「多く戦ってもらわなければ困る」とまで言っていた。
それは、雷神の戦闘データを得る為の物だったのだろう、と考える事は確かに出来る。




