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オースィニ-04

 ここから脱出したいのは山々だが、このまま機体の外へ生身で出てしまえば危険もあり得る。


 このまま救援を待つのが吉か――そう考えた時、機体正面にある扉が、開いた。



『やぁ、織姫。楠』



 機体が、何やら通信を受信した。その声は、二度ほどしか聞いた事はないが、しかし確かに分かる。



「親父……っ」


「お父さん、だよね?」


『ああ。君たちと話したい事がある。是非雷神から降りて、こちらまで来てくれないか?』



 楠が声に出す事無く、扉の厚さを計測。雷神が殴ったりすれば破れる厚さでない強固な厚さであることが分かり、舌打ちをしつつ「断ると言ったら?」とだけ聞いてみる。



『断られたら、そのまま閉じこもってもらうしかないね』


「でもお父さん、私達丸腰だから、武器を持った大人たちに囲まれたくないんだよ」


『その点は安心しなさい。先ほど脱出した輸送機に、このUIGで活動する作業員の他、白兵戦部隊も全員搭乗している。残っているのは非戦闘員と撤退準備を進めている一部作業員のみで、二人が今いる作業庫と、そこから先には僕しかいないよ』


「哨と梢さんはどうした」


『彼女達も先ほどの輸送機で飛んでもらった。ガントレットの事だから安全確認が出来るまで歩兵部隊の突入は避けると考えたが、それでも危険だったからね』


「つまり、オレ達の安全もある程度は保証してくれるって事でいいんだな?」


『ああ。それに、僕としても雷神は無事にお返ししたい。それ以上破損してしまうと、僕の計画に支障も出かねないから、機体にも触れる事は無いと約束しよう』



 まぁ、雷神には元々オレか楠のどっちかが搭乗しなければセキュリティ上の問題もない。


舌打ちしつつ、オレは一応機体に備えていたポケットピストルを楠に見つからないようパイロットスーツの袖に隠し、機体ハッチを開ける。楠は、ロックを行った上で機体のシステムを落とし、共にコックピットを出る。


機体を降り、開かれた扉の向こうへと出る。


そこには、親父が一人でいた。


その若々しくも火傷の跡が痛々しく感じる頬、さらには額にガーゼと包帯を巻いている事から、恐らく怪我でもしたのだろう顔を微笑ませ、彼はオレ達の元へと歩み寄ってくる。



「そこで止まれ」



 だが、数メートルほど距離が開いていた所で、オレがポケットピストルを構えて、歩みを止まらせる。


親父はため息をつきながら「無茶をするな」と言った。


 オレも、跳弾の可能性があるので撃ちたくはないが、それでも危険を排除する為だ。



「織姫、お前は銃を持つだけで震える子だ。そんな危ない事をするのはやめなさい」


「震えようがどうしようが、構うもんか。楠を守る為なら撃つ。その為に予行演習だってした」


「まさか、ウェポン・プライバシー社の捕虜は、お前が殺したのか?」


「その前に何百人と殺してる。三人なんか些細な数字だ」


「これは……また計画に修正が必要か」



 少々、親父が苦い顔をした。それでも彼は「お話に戻ろう」と背中を見せ、付いてこいと顎で示した。



「……話したい事は、僕の計画についてだ」


「親父が、レイスを使ってやりたい事って事か?」


「お父さんは、どうしてレイスの首領なんかになったの? 風神なんて機体を使わずに、もっと穏便に事を起こす事は出来なかったの?」


「ああ。雷神と言う機体だけではダメだ。風神と言う機体だけではダメだ。……どちらも存在し、どちらも存在意義として正しい物だ」



 ついていく先にあったのは、一つの部屋。


そこは、小さなソファと机が置いてあって、照明も点りの小さな豆電球のみという、薄暗い空間だった。


壁に点在するのは、恐らくコンピュータ関連だろうか。


 現在は通信を量子通信で行う時代に、これはデータ通信を光ファイバーで行うタイプとみた。



「ではまず話したい事だが――前提として、知っておいて欲しい事がある。


 AD兵器と言う存在が、なぜここまで世界に浸透したか、その理由だ」


「説明できるってのか?」


「まぁ、異論は出るだろうね。しかし、これ以上の答えなど存在しないよ。


 人間の善性を信じる事は自由だし、僕としてもそうして欲しいけれど、お前やリントヴルム、島根のどかという存在を知ってしまったからには、この理由を覆す返答を期待する事は出来ない」



 何を言っているんだ、と思いつつ、親父の語る事に耳を傾ける。



――親父は、ADという兵器が発展した理由は、そもそも人間が『人と人が争う』という本能に近しい兵器だったから、と語った。



「そ……そんな事、ある筈無いじゃないっ! だって、人間は……っ」


「人間は、何だい? 楠」



 親父は笑いながら、楠の言葉を待つけれど、しかし楠もそれ以上の言葉を出せずにいる。



「面白い理屈だな」



 対してオレは、親父の言葉に納得していた。

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