オースィニ-02
『やがて人類は、武力同士をチラつかせ、互いをけん制し合う事に成功した。
戦争は互いの情報を奪い合うサイバー戦争へと移り変わり、人の生き死にが圧倒的に減った世の中へ変貌したんだ』
『……そして、あえて他国への攻撃をしないと世界へ示す事によって、第三国から理解を得て、自国が戦う事なく他国に監視させる、情報戦・心理戦にもなった、という事ね』
聖奈が口にした言葉も、かつて良司が言った言葉だ。
その言葉が彼女の中で生き続けていて、忘れる事の出来なかった言葉。
『けれど、そんな世の中は終わりを告げた。
――ADという存在が生まれたんだ。
人が操縦する、人の形をした兵器。
これは、人間を原始時代へと戻す事にも、かつ多量を殺す事にも適した兵器だった。
人間は、人間として他者を殺したいという欲求に抗えなかった。
効率的では無かったからこそ他のやり方へ移行したけれど、しかし見つかってしまえば、本能に抗う事など出来ない。
結果、ADと言う兵器は連邦同盟という三国……特に高田重工や米軍によって発展を促され、そしてその情報を得ようと新ソ連系テロ組織が躍起となり、サイバー戦争の時代から紛争の時代へと逆戻りを果たした、というわけさ』
『それは、飛躍し過ぎじゃないかしら?』
『果たしてそうかな?
ではなぜ、GIX-001【元祖】等と言う欠陥機を作り上げたシロサカ・シューイチとシモヤマ・アキラという人物を、エンドウ・ツトムという人物は評価し、防衛装備庁長官として支援し、ADの発展に貢献した?
……彼は、後のインタビューでこう残しているよ。
「人が人らしく戦う事は必要である。例えば機械同士による戦争は終わり等ない。全てを破壊しつくすだけ。
ADという兵器は、人が人らしく戦う為に必要な物だ」、と』
聖奈にとっても、明久にとっても。
彼女の言葉を、否定できるデータがない。
むしろ、彼女の言葉を聞けば聞くほど、確かにと認めてしまいたくなっている自分がいる事に気が付く。
『シロサカ・シューイチは、この事実に気付かされた。
結果、このような世界を生み出してしまった自身の罪に、どうやって贖罪するか、それを思考した』
『お父さんは、どんなバカげた事をやろうとしてんの……?
そんな、本当に人間の本能がADという兵器を発展させたいと、その情報を得たいという欲に繋がっているんだとしたら、止める方法なんてないじゃない……っ!』
『ああ。私も、果たしてコレでいいのかはわからない。けれど、彼は実施しようとしている。
――そしてそれが嘘でないと知ったからこそ、私は彼の野望に与する事を決めた。
今から、その方法を、お話するとしよう』
**
オレ――城坂織姫は、現在リントヴルムの搭乗するアルトアリス型と交戦中だ。
戦況はまずまず、と言いたい所ではあるが、そう簡単な話ではない。
現在確認されている、レイスの所有しているADは風神を合わせて六機。
内、UIGの外で姉ちゃんと村上の二機が、アルトアリスの一機と交戦中。
そしてオレがリントヴルムのアルトアリスと交戦中。
さらに、風神は先ほど交戦した影響でほとんど戦力としては使い物になっていない。恐らくパイロットの負担が原因だろう。
そして――久世先輩が撃った115㎜滑腔砲の一撃が、風神をかばう様にしたアルトアリス一機に着弾し、沈黙した。
模擬弾ではない、実弾である115㎜砲の直撃を受けたのだから、墜としたと言っても問題は無いだろう。
つまり、敵戦力の二機は少なくとも墜とした、という事だ。
後は風神の確保をしたい所ではあるが、しかしこちらも手負いだ。
先ほど115㎜砲を撃った衝撃で機体を動かさなくなった久世先輩のフルフレームと、戦場でいらない悩みを抱いた島根。
こちらの手札は、どちらも使い物にならない。
「チッ」
短く舌打ちし、リントヴルム機が振るった拳の一撃を避け、脚部キャタピラで後退しつつ、島根機に通信を取る。
「おい島根。機体まだ動かせるか?」
『……うん』
「満足に戦えないなら、久世先輩のフルフレームを担いで離脱しろ。邪魔だ」
『……うん』
のっそりと動き上がった島根機。しかし戦争ではなく人命救助だという事が頭にあるからか、随分とマシな動きではある。
フルフレームを担ぎ、そのままUIGから離脱しようとした彼女に目をやる事無く、リントヴルム機は再びオレへ攻撃を仕掛けてくる。
だが、それでいい。
リントヴルムとの因縁は、そろそろ決着を付けたい。
振るわれる拳に、こちらも拳で応対する。
ゴウン、と響くT・チタニウム装甲同士の衝突音。
そんな中、リントヴルムが声をあげる。




