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オースィニ-01

 少しだけ、時間は遡る。


アルトアリス試作一号機に搭乗するオースィニは、雷神がUIG内に突入した事を確認した後、倒壊した樺太UIG出入口ゲート付近で、城坂聖奈と村上明久の搭乗する秋風二機と相対し、距離を開けていた。


両機とも、60㎜機銃を構えて何時でも撃てるようにしている。


そしてオースィニも、両腕で大型ブレイドを構えて、何時でも突貫してあなた方を斬れると圧力をかける事で、三機の間に沈黙を与えていた。


交戦を開始して、どれほどの時間が経過したか、オースィニは確かめる。


十二分ほど経過。後数分は時間稼ぎが必要になるか、と考えた彼女は、大型ブレイドを地面へと突き刺し、両手を広げて、無害をアピールする。



『……何のつもり?』


『お話を、と思ってね』


『話、ですか……?』


『ああ。ムラカミ・アキヒサ君と、シロサカ・セイナの二名であれば、ある程度冷静に私の話を聞いてくれると思って』


『どうかしら。正直、私はアンタの事を撃ちたくて撃ちたくて堪らないわよ?』


『……やはり神崎紗彩子君は、あの時に私がした攻撃で、何かしら怪我を負ってしまったのかな?』


『ええ。命に別状はないけれど、それでもうら若き女の子を傷物にしてくれちゃって。教師としてアンタを殺したくてしょうがないわ』


『言い訳はしない。私もどうせ長い命ではないだろう。――だから、せめて私の話を聞いてほしい』



 お願いだ、と言う彼女の言葉に、明久機が60㎜機銃の銃口をコックピットへ向けつつ、しかし『何を話したいっていうんすか?』と問うた。



『聞いてくれるのかい?』


『勘違いしないで下さいよ? 友達が酷い目に遭ってんだ、許せるはずがない。


 ……けどオレ達だって、何時アンタらの仲間に怪我を負わせるかもわからないし、オアイコなんだろ?』


『そう、そうだ。それが戦争だ。殺し殺されが許される世界だ。そうして人的資源を削る、直接的なやり取りが戦争という政治だ』


『だったら……オレはバカだけど、人の命を削らない政治をしたい。


 アンタらが何をしたいのか、どうしたいのか、それがわからず、アンタらと殺し合いしたって……そんなの、オレ達が正しいって、信じる事も出来ないから』


『……シロサカ・セイナ。君の教え子は、立派な子供だな』


『ええ。私も今じーんと来てるわ。……話してちょうだい』



 もとより、時間稼ぎが必要だったからこそ始めた交渉。


けれど、オースィニの心には、それ以外の理由も、生まれてしまった。


 この無邪気で、けれど必死に何かを掴もうとする男の子に、真実を語りたいと、そう思えたのだ。



『この通信を録音しているね?』


『切って欲しいの?』


『いいや。むしろ残して、レビル・ガントレットへと伝えたい。


 ……私もこの話が、どれだけ正しいのかは知らない。けれど、我がボスから直接聞いた、どの様に世界を変えていくのか、その顛末だ』



 聖奈と明久が押し黙る。


現在基地には、隣接する機体同士の短距離通信しか行えぬようにされている。


 この音声通信を録音されていなければ、オースィニの言葉が曲解され、ガントレットたちに伝わる可能性もある。


それは避けたい。オースィニはそう考えている。



『まず、共通認識から改めて確認しよう。――君たちは、どうしてAD兵器がこれほどまでに発展を遂げたか、分かるかな?』



 突如問われた言葉に、聖奈は『どういう事よ』と短く返すと、オースィニも『そのままの意味さ』と言う。



『AD兵器は、本来はただの兵器だった筈だ。ミサイルなどの戦略兵器や、戦車や戦闘機等と言った局地的に対応する兵器と、本来は違いなどない筈。


 なのに、どうしてADという兵器だけが、各国の軍事バランスを示す指標にまでなり得た?』



 これまで、幾度となく問われた、ADという兵器の存在理由。


しかし、確たる答えは今までなかった筈だった。


それでも――明久は、心に残ってた言葉を一つ、述べる事にする。



『……人が、人らしく兵器を動かせる、それが凄い事、だから……?』



 かつて、AD兵器の利点をガントレットに問われた時。


 島根のどかが『人が人らしく兵器を動かせる。それってすごい事じゃん?』と言った言葉。


良司と紗彩子はこの言葉に首を傾げていたが、明久には、それがやけにしっくり来ていたのだ。



『意外と聡明だね』


『本当にそれが理由だっての?』


『少し違うがね。


 言ってしまえば人間は、人間同士で殺し合いたいのさ。


 人の形をした兵器で、人の形をした兵器を墜とし、殺す。


 けれど、ミサイルや戦闘機、戦車ではそれを成せない。


 言ってしまえば人間は、斧を持って他者の身体を引き裂き、殺す。


 それだけで本来は満足だったんだよ』



 だが、人は群れとなり、やがて組織化し、斧や剣、槍だけでは多くの命を奪えなかった。


だから銃が、戦車が、戦闘機が、無人ドローン兵器が、そして戦略ミサイルが――核と言う兵器が生まれた。

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