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生徒会-04

「分かっていないな。権力者を敵に回す恐ろしさを」



 そこで久瀬先輩が一瞬、冷たい視線を浮かべながら、いつの間にか手に持っていた携帯端末の画面を、オレに見せつけた。


――そこに浮かんでいたのは、村上明久と、明宮哨の証明写真であった。



「僕達は、この明宮哨くんと、我が生徒会の会計である村上明久を、今すぐ退学にさせられる準備がある」


「何を、言っている」


「君がこの模擬戦自体を受けてくれれば、この準備は全て無駄となる。君が模擬戦に勝とうが負けようがね。だが、君が受けなければ、この二人は退学になる。明日にでも学校を去ってもらおう」


「そんな権力、アンタらにあるのか?」


「あるさ。僕らが理事長に進言を行えばいい。君に対する脅しとしては、恰好の二人だ。理事長も嬉々として承認印を押すだろう」



 姉ちゃんの事はともかく――オレは今、この生徒会と言う存在に、心の底から湧き出る苛立ちを持つ他無かった。



「卑怯者ってのは、アンタらみたいな奴の事だな」



 せめてもの捨て台詞。だがその言葉をまるで聞いていないと言うような表情で、久世先輩は言う。



「僕は別に、生徒会に入らなければ二人を退学にさせると言っているわけでは無いんだ。君は勝てばいい。勝てば今まで通りだ。メリットは十分にある。――せっかく出来た友達の将来がかかっているんだから、君こそ愚か者にならぬように気を付けたまえ」



 確かに、これならばメリットがある。オレが模擬戦を受ける事によって、二人の将来は今の所安泰だ。もし勝てばオレも生徒会に所属する必要は無いし、負けたとしてもデメリットは、今の所生徒会に所属する事のみだ。……けど、一つ問題がある。



「……受けようにも、二対二の模擬戦なんか、無理だ。俺には、一緒に戦える、友達なんて、いない」



 一応考え付く人達はいる。クラスメイトだ。しかし一緒に生徒会と戦ってくれる奴なんていない。


 一年Cクラスのほとんどが、素人に毛が生えた程度の実力しかないので断るだろうし、むしろオレ一人で戦った方が分の良い戦いとなるだろう。


 中でもある程度実力がある村上は生徒会の所属だし、オマケにアイツが今回交渉の餌にされているのならば、あまり宜しくない人材だ。



「オレ一人で戦う。それでいいだろ」


「それが僕の狙いなんだよ。ボクはレギュレーションを二対二と言った。レギュレーションを守れないのならば、君は不戦敗となり、生徒会に所属する他無い。どうだ、意外とボクは策士だろう?」



 言葉に似合わぬ爽やかな笑みを浮かべるこの人に対して、オレは反論も思い浮かべる事も出来ない。


もう、そうする他無い。諦める、生徒会に入ると言おうとした――その時だった。



「いいえ、まだです。私が、そのもう一人を請け負います」



 三年OMS科の教室に入室する、一人の女性。彼女は金髪のロングヘアをポニーテールでまとめて、端麗な顔立ちを出している少女で――オレは彼女に、見覚えがある。



「か……神崎?」



 先日、オレとイザコザがあった女性・神崎紗彩子だ。彼女は、教室に入った上でオレの隣に立ち、久瀬良司を見下した。



「関心致しませんね、生徒会の皆さま。生徒を脅し、権力に屈させる。生徒の模範となるべき生徒会に有るまじき行為です」



 彼女は、力強くそう発言をした上で、生徒会長である秋沢へと視線を向けた。秋沢も視線を受けながら口を開いた。



「神崎紗彩子さん。あなたも理事長直属組織の隊長を務める方です。であれば、理事長命令でもある今回の件は、あなたも従う必要があるのでは?」


「ええ、その通りです。ですが生徒を脅し、イエスと言う他無い交渉を行うあなた方の横暴を、許す理由にはなりません。――その交渉、ノーにも出来る様に、させて頂きます」



 彼女はオレの肩に手をやり、その上で言い放つのだ。



「二対二の模擬戦、織姫さんと、私のタッグでお受け致します。これならば文句はないでしょう?」



 **



模擬戦は、明日の午後三時より、多目的ホールにて行われる事が確定した。オレは神崎と共に三年OMS科の教室を出た上で、深く溜息をついて腰を落とした。



「ありがとう神崎。幾分か良い所に落ち着けた」


「べ、別に、貴方の為にしたわけではありません! 私は学園の治安維持を行う武兵隊の隊長として、成すべきことを成したまでですっ」



 彼女は少しだけ顔を赤めながら、プイッと顔を逸らしたが、とある方向を見て、続きの言葉を放つ。



「……むしろ、あなたがお礼を言うべきなのは、彼女です。彼女が私にこの事を教えてくれなければ、あなたは有無を言わさず、生徒会に入る事となったのですから」



 今までオレ達が居た教室から、少しだけ離れた廊下の影に、一人の少女が隠れていた。哨だ。彼女はオズオズと姿を現して、オレの元へと駆けてくる。



「あの、姫ちゃん。大丈夫だった? 生徒会に……お姉ちゃんに何か、されてない?」


「あ、ああ。大丈夫。模擬戦の申し込みみたいで、二対二で戦わないか、って言われたから、神崎と一緒にやる事になっただけ」



 全貌は言わない。哨も、姉が所属する組織によって、自身が退学になったかもしれないと聞かされる事は苦痛だろう。神崎も察してくれたのか、下手な事は何も言わず、ただオレの隣に立っているだけだった。



「そうだったんだ……神崎先輩、ごめんなさい。ボク、焦ってたみたいで」


「構いません。私も生徒会の方々とは一度、模擬戦を行ってみたかったのです。哨さんが謝る必要はありませんよ」



 フッと笑みを浮かべながら、オレの手を取り「では模擬戦の打ち合わせを」と言った神崎。



彼女に連れられ、向かった先は、高等部校舎の屋上。塀にもたれ掛かった神崎は、オレへと言い放つ。



「――これ以上、私に出来る事はありません。先ほど生徒会長が仰っていた言葉通り、私も理事長直属組織の長を務める女です。下手な抵抗は、私の部下たちが持つ立場も失いかねない」


「分かってる。本当にありがとう」


「ですが、弱気になる必要はありません。私は学園の治安を守る武兵隊一の実力者で、あなたはその私に勝った男です。――胸を張り、全力で戦えば、勝利は間違いありません」



 勝てばいい。そう言い切った彼女の言葉が、オレはとても嬉しかった。



――確かに、彼女ならば、背中を預けられる。



彼女はオレが認めた、確かな【兵士】なのだから。

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