ズーメイ-09
そして、そんな殴り殴られの攻防を続ける、兵器同士の戦いとは思えぬ一戦を横目に、風神とフルフレームによる戦闘も、苛烈を極めていた。
風神のスピードを見切り、振り切られたサーベルを受けたフルフレームは、そのまま機体をしゃがませつつ自身のサーベルに送っていた電力をカットすると、勢い余って振り切られる風神のサーベル。
しゃがんでいた事でそれを避けたフルフレームは、肩部の電磁誘導装置を風神にぶつけた後、電磁誘導装置より発する磁場を最大出力で放出する。
ゴウン、と機体が揺れる感覚。風神は数十メートルほど吹っ飛び、機体の背中を地面に預けた事によって、フルフレームは115㎜滑腔砲を構え、ロックオンシステムなど使う事なく、発砲。
放たれた弾丸。機体を起き上がらせながら、60㎜機銃の銃口を持ち上げ、銃弾を放ちながら機体を転がす風神。
滑腔砲の砲弾が着弾した事による衝撃で、左腕部に異常が発生する風神。
風神より放たれた60㎜の銃弾がレーザーサーベルに着弾した事により、放棄したフルフレーム。
右手で起き上がり、そのまま機体を走らせた風神のスピードに、良司は『しまった』とだけ呟けた。
振るわれたサーベル。切り落とされるフルフレームの右腕部。続けて風神はフルフレームの左腕部を切り落とそうとするも、しかし左腕部に握られたサーベルでそれを受けた。
『しつ、こい……ッ!』
良司は、そこで初めて敵パイロットの声を聴く。
女の声。そして若さはそほど自分たちと変わらないだろう。
そして、何よりも声には、余裕が無かった。勿論良司と殺し合いをしている現状、楽しんでいるというわけでは無いだろうが、それにしたって、声に苦しさがありすぎる。
『もしや、貴女は、その機体の出力に耐え切れないのでは?』
『だったら、何……っ!』
『投降してください。あなた方の身の安全は保障します』
『無理、なの……っ! 殺さないから、殺さないから……お願い、早くやられて……っ!』
ゴホゴホッ、と咳き込む様子の女性。しかし、風神は止まらない。
むしろ、フルフレームに馬乗った風神は、フルフレームの顔面に強く右腕部を振り込んだ。
メインカメラ、センサー各位に異常発生。良司は舌打ちしながら叫ぶ。
『霜山一佐! そこにいるのですか!?』
『、っ、は、はい……、います……っ!』
『彼女を止めて下さい! でなければ、あなた方が死んでしまうっ』
『……久世さん。貴方は随分と、人の心配をするようになったのね』
『僕とて学生で、子供で、未熟者だ! だからこそ、救える命を救おうと思って何が悪いっ!』
最後に、機体を起き上がらせた風神が右脚部を強くフルフレームの胸部に叩き込んだ風神。
それにより、機体がシステム異常を起こして動作を止める。
『久世!?』
のどかがそちらを見て叫ぶ。返事は無い。
気絶しているのか、それとも――
『ふざ、けんな……っ!』
湧き立つ怒りを、押さえつける事が出来ず、のどかは目の前のアルトアリスが振るったダガーナイフを拳で叩き返し、そのまま二撃の蹴りを両膝に打ち込み、さらにコックピットに向けて、腰を曲げて勢いよく振り込んだ拳を、叩き込んだ。
ついでに電磁誘導装置から発した磁場での吹っ飛ばしも食らえと言わんばかりに組み合わせた結果、リントヴルムの搭乗するアルトアリスは風神を横切り、通路の奥まで吹き飛んでいく。
『……あれ、が……シマネ・ノドカ……』
『ええ……おそらく、オリヒメさんより強い……最強』
のどかの秋風は、ただ歩く。
ドシン、ドシンと機体の脚部を前に出し、一歩一歩風神に近づいてくるだけ。
ただの巨体。
である筈なのに――今、リェータと睦にあるのは、恐怖。
『あのさぁ、どうして霜山さんが久世を傷つけんの? どうしてさ。アンタはアタシらを、こうして戦場に招いた人っしょ?
なのに、アンタはアタシらを倒すっての? 何それ、ホント……意味わかんない……ッ!』
そして今、機体が跳ねた。
天井の高さなど考えぬ跳躍。
そして恐怖故に、60㎜機銃の銃弾を放ったリェータだったが、しかしのどかは両腕でコックピットを守るだけで銃弾の雨を突っ込み、そのまま風神へ殴りかかる。
脚部キャタピラを稼働させて後ろへ逃げる風神。
その動きは確かに早いが、しかし目で追う事なく感覚で追いかけたのどかは、その先にある風神にコックピット目掛けて、蹴りつける。
『遅いってェのォッ!!』
強くシェイクされる機内で、リェータは喉元までやってくる吐き気を抑え、壁に衝突する寸前で機体制御を行い、再び銃弾を放つ。
流石にこれ以上の着弾は出来ないと、感覚で理解していたか、のどか機は機体をジグザグと動かしながら、しかし確かに風神へと接近する。
風神は、顔面を殴られ、今度こそ壁に衝突する。
それだけで、リェータの意識が飛びそうになる。
睦は歯を食いしばりながら、ただ逃げる為に機体を動かす。




