ズーメイ-04
城坂織姫は、今まで「誰かから与えられた役割」に沿って生きて来た。
アーミー隊で、彼はガントレットと言う男に与えられた生き方によって戦ってきた。
城坂修一と言う男によって与えられた力によって、戦い抜いてきた。
四六では、雷神プロジェクトなんて言う夢物語に従って戦っている。
コレを、与えられた物で戦ってないと、誰が言える。
リントヴルムはそう言った。
「でも、彼はまだ子供です。誰かが道を示してやらなければ」
「違うね。道を示すのはいい。けどその道を一つだけ示して歩ませるのは違う。
他人によって示された道や、自分が見つけた道。色んな道の選択肢を振るいにかけて、どっちが自分にとって正しいか見極める。
それを出来ねェなんてのは、ガキ以下の赤ん坊だ」
「あの子は、自分から雷神プロジェクトを受け入れたんですよ」
「それ以外の道、あったろ。ADに乗らねぇっていう道もあれば、戦う事をやめるって道もあった」
「それは」
「多分、ガントレットはそれを望んだろうな。そうなった方がいいと思ったろうな。
ライジンなんて不完全な兵器を、テメェの息子に使って欲しくなかったろうよ。
それでも奴は、お前らっていう他人に与えられたモンで、また自分から戦争をおっぱじめた。
結局、アイツは自分の意思を持たず、ただ他人から与えられたモンでしか戦ってねぇし……
お前ら汚ねぇ大人は、戦う以外の道を示さず、他の戦い方を示さず、テメェらの都合だけで、テメェらの都合がいい戦い方を強制したんじゃねぇのか?」
違う、とは言えなかった。
「だからオレぁ、シューイチとかアンタみたいな、善人ぶって戦う奴がキライなんだよ。……あそこにいるミハリちゃん、見てみろや」
哨は、リェータの意見を聞きつつ、必死になって風神を整備する。
それは、修一に頼まれたからではない。
リェータと言うたった一人の友達を守る為に、彼女が出来る最大限の答えが、それだったのだ。
仮に、選ぶ道が少ししかなくとも。
自分が納得できる道を、彼女は選んだ。
「答えてみろよ。お前らは、戦争を無くそうって甘い言葉でオリヒメを誘った後によ、アイツがこれまで歩んできた事を労ってやったか?
アイツに守られようとしてばかりで、アイツを守ってやろうと考えたか?
ライジンを与えりゃ、アイツは自分で生きられると思ったか?」
「……やめて、ください」
「やめねぇよ、いいから答えろ。
――お前ら大人は、さっきお前が言ったように、大人として他の道を示してやったのかって聞いてんだよ」
「やめて下さいっ!」
叫び、涙し、肩で息をする睦に、リントヴルムは今まで他人に見せた事の無い、侮蔑を表現した目を、彼女へ向ける。
「オメェらに、戦争を無くそうなんて言う資格はねぇ」
「やめ……やめて……」
「戦いってのはよぉ、自分たちをぶつけ合う場所なんだよ。
政治外交でどうしても折り合いがつかねぇから、武器持って戦うしかねぇって状態になって、ようやく辿り着く政治手段だ。
テロだってそうだろ? 欲しいモンがあったりよぉ、成したい事があるからこそ戦うんだ。
それを怖がるのはいいけどよ、それで命を消費させられる兵士の事を、お前らは考えてねぇ。
考えてりゃ兵器を進化させるんじゃなくて、戦争する人間を進化させようなんて考えねぇ。
オメェもその内の一人だったならよ、どうしてオリヒメに他の道を示してやらなかった?
あれか? ニッポン人に多い『他人が得するのが許せない』って奴か?」
「そんな、そんな事は……っ」
「反吐が出ンだよ、そういうの。尤もらしく言葉を着飾って、大義名分を振りかざして、そんで他人がどうなるのかを見やしねぇ」
「貴方は……貴方はどうなんです……ッ!? 貴方は、戦場で、どれだけの命を殺したというの!?
ロシア空軍の人間だった時にも、ミィリスにいた時にも、こうしてレイスへと身を置いた後にも、貴方は散々人を殺したでしょう!?」
「殺したよ。百超えた辺りから人数も数えてねぇ。
――けどよ、それはオレが選んだ道だ。ンでもってこの生き方は、誰にも強制されてなければ、誰に同じ土俵にいろなんて言った覚えもねぇ。
戦場は、自分が立つと決めたからこそ立てる場所だ。
――ガキを誑かせて、無理矢理その覚悟を決めさせたお前らに、どうこう言われる筋合いはねェよ」
話は終わったと言わんばかりに、リントヴルムは自身の乗機であるアルトアリス試作五号機へと向かっていく。
そんな彼の背中を見据えながら、溢れる涙を拭い、それでもドンドン溢れてくるから、その場で膝を折って額につけた睦。
――そして、警報が唸る。




