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ズーメイ-02

「教師としてはね、貴方が優秀な子だとはどうしても言えない。成績は低めだし、じゃあAD戦に優れているかと言えば、Cクラスの中では強い方、位のものでしかないわ」



 言われてしまった、と言わんばかりに明久が苦笑する。


けれど、ここでずんと落ち込まなければ、少なからず自惚れは無い。


自信と自惚れは違う。


自信は実力を発揮できるが、自惚れは実力を抑えてしまう。



「けど、貴方は色んな所で私を、みんなを助けてくれた」


「偶然ですよ、そんなの」


「偶然でいいじゃない。私が貴方を生徒会にスカウトした理由、忘れたの?」



 貴方の悪運を買ったのよ、と。そう言って彼の頭を撫でると、明久は意を決したように、ガントレットの元へ。



「大佐、一ついいっすか?」


「何だ、アキヒサ」



 残り、資料やらなにやらを整理しているガントレットに声をかけた明久に、彼も咎める事は無い。


作戦開始までの時間が長いのだ。世間話に付き合う位は大目に見ようという考えなのかもしれない。



「オレなりに、色々考えたんですけど、お願いがあるんです」


「言ってみろ」


「最初からポンプ付きで出ちゃ駄目っすか?」


「理由を述べろ」


「秋風に搭載されてるプラスデータが、オレに合ってない気がするんです。……気がするだけで、どうしてそう思うのか、納得はいってないんですけど」


「ほう」



 笑ったガントレットが、タブレットを取り出して映像を見せた。



「これは、オリヒメの乗ったポンプ付きと、セイナが部下に撮影させていた、オリヒメの搭乗したアキカゼの映像だ」



 どちらも、織姫の得意とする格闘戦を想定した模擬戦である。


ポンプ付きの強引な推力を用いた瞬発な攻撃に比べ、秋風での攻撃は――どうにも上品だ。



「アキカゼとポンプ付きは、そもそもコンセプトが違う。言ってしまえば、アキカゼにポンプ付きのプラスデータでも搭載できればいいのだが、それは本来出来ない」



 ポンプ付きは、あくまでFH-26【グレムリン】にE-01X【ハイジェットパック】というプラスデータを搭載する事で、単純に乱暴な出力を出す事が可能となる。


そして、プラスデータの規格は共通で、以前哨が織姫の秋風にこのハイジェットパック搭載が可能な設定を組んだと言った事もあるが、しかし高田重工への申請は十五年待ちという状態で、実用は出来ないという結論になった。



「……でも、何でやっちゃダメなんですかね?」


「規約違反になるからな。――しかし、この状況で規約がどうのと言っている場合ではないだろう?」



 ニヤリと笑ったガントレットに、明久も笑う。



「搭載、していいっすか?」


「やってみるんだな、じゃじゃ馬」



 書類を一枚明久へと手渡したガントレットと、それを受け取って颯爽と格納庫へと向かっていった明久を見届けて、聖奈はため息を吐く。



「国際問題にもなりかねませんよ?」


「するんであれば、公的な記録が必要だ。しかし戦場でそんな馬鹿正直にどんな規約違反をしたか等を記したりなどする奴はおらんだろう」



 それに現在【ひとひら】に駐在する高田重工の人間は、四六の息がかかった人員である。口を止めるには最適な人材だし、むしろバックパックのニコイチ程度で事を済ませるのならば大目に見るハズだろうとしたガントレットの言葉は、恐らく正しい。



「それに奴の言っている事も正しい。ハイジェットパックと高機動パックはそもそも性能が段違いに違うし、何故高田重工が秋風用のハイジェットパックを開発しようとしないのかが疑問だ」


「フルフレームがあるからでは?」


「引き算の美学を分かっていないのだな、高田重工は。ラーメンも何もかも、乗せればいいと思っている」


「でも、ぶっつけ本番でやろうとしているんですよ?」


「指揮官としては止めるべきだ、とでも言いたいのか?」


「ええ」


「本人がどの様に作戦達成を行おうとしているか、それを知っていれば、止める事などできまい。――せいぜいお前が手助けしてやることだな」



 聖奈の肩を叩いたガントレットと、そんな彼の言葉に深く息を吐きつつ、しかし吹っ切れたような表情を浮かべた聖奈が、ガントレットへ言う。



「私は、貴方の事をいつまでも許しません」


「そうか」


「でも、一つだけお礼を言わせてください」


「何を」


「姫ちゃんが、ああなってしまったのは貴方のせいです。けれど、人間として真っ当に生きてこられたのも、貴方のおかげです。……お礼、しようと思っても、恥ずかしいから、ついしなかったんですけど」



 面と向かって言うには、恥ずかしくて。


顔を赤めて言った彼女の言葉に、ガントレットも笑みを浮かべる。



「私は、生き方を間違えた人間だ。そしてその業をオリヒメにも押し付けた。礼を言われる筋合いはないのだが……それでも、その気持ちはありがたく受け取っておく」



 聖奈は彼の言葉を聞いて、格納庫まで向かう。


そしてガントレットは作戦指揮を執る為に、艦橋へと向かう。



皆はこれから――戦場へ向かう。

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