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ズィマー-05

 修一の率いるレイス実行部隊は、五つの輸送機に別れて別々のルートから、樺太島の山岳地帯に設計されたUIGに降り立ち、その堅牢な門に収容されると共に、姿を隠した。


 そして各アルトアリス他、風神を自動整備装置へとドッキングさせ、機体から降りたリントヴルムは、共に降り立ったヴィスナーに近づく。



「カラフトって事は、ロシアじゃねぇの?」


「そうよ。アンタも祖国の領土は覚えてんだ?」


「流石になぁ。それにしても、ロシアにUIGがあるなんざ知らなかった。オメェさんは知ってたのか?」


「知ってる――というより、アタシはここで生まれたんだから、知ってて当然よ」


「は? ここで生まれたって、どゆ事?」


「何でもない。忘れて」



 ツカツカと早歩きで去っていくヴィスナーの事を追いかける事が出来ぬまま、リントヴルムは続いて機体から降りて来たオースィニへ声をかける。



「オースィニちゃんは、ヴィスナーちゃんの事よく知ってんの?」


「よく、は知らないね。前にも言ったけれど、彼女のお父様が本来レイスの首領だからね。こうしてUIGがある事も、彼女がこのUIGで生まれたという事も、まぁ彼女が言うからには事実ではないのかな」



 そういえばそんな話をしたな、と思い出しつつも、しかしこうなってくると色々気になる事は多いとしたリントヴルム。



「そもそもどうしてロシアがUIGを持ってんだ?」


「正しくないね。ロシアが持っている、ではなくレイスが持っているんだ」


「UIGってのは地底産業都市だろ? 大体のUIGじゃ、それぞれに特化した研究や開発を行ってるモンだ。ココは何をしてるってンだ?」


「なに、どこのUIGでもやっている、兵器の開発だよ。――ただ、その兵器がADなのか核兵器なのか、それとも兵器と称される人間なのかの違いはあるけれど」


「胸糞わりぃ話だな。――つまりヴィスナーちゃんは、そういう作られた兵士ってワケか?」


「ああ。だが私もその話自体はあまりしたくないんだ。――貴方の言う通り、胸糞悪くなるからね」



 ため息を漏らし、会釈と共にオースィニも去っていく。


 続けてリェータやズィマー等がいればと思ったが、しかしリェータは既に三号機から出てどこかへ行っており、そもそもズィマーと睦は風神に搭乗した結果、輸送機内でも緊急医務室にいたこともあり、現在はこのUIG内にある医務室にでも運送された事だろう。



「君だけが残っているとは珍しいね」



 声をかけてきたのは、哨と梢を連れた修一だった。


修一は近くの作業員へ「彼女達に割り振った自室へご案内しろ」とだけ命じ、リントヴルムと会話をさせぬよう彼女達を遠ざけた。



「よう、ズィマーちゃんとムツミって姉ちゃんは無事なのか?」


「無事とは言い難い。睦ちゃんは酔っているだけだが、ズィマーの方はもう少しで肋骨折れて内臓に刺さる所だったそうだよ」


「……いてぇのかねぇ?」


「多分滅茶苦茶痛いと思うし、場合によっては死ぬと思うが、やりたいのかい?」


「ちょっとな」


「君はブレないね。そういう所があるから、哨君と梢君を近づけたくないのだが」


「でぇ? ズィマーちゃんがダメになった時用にリェータちゃんやヴィスナーちゃんがいるってのかい?」



 僅かに修一がピクリと表情を動かして、リントヴルムは「図星か」とだけ笑う。



「ズィマーちゃんがフウジンに乗るって時にゃ、ちょっと面白そうな事になったなと思ったけどよ、それにしたって非ぃ人道的じゃありませんかねぇ」


「搭乗に耐えうる人材が彼女達しかいない。君とオースィニでは間違いなく死ぬ」


「ライジンプロジェクトのデータ見た時にも思ったけどよォ、お前さんは命ってモンを軽視し過ぎやしねェか」


「君達兵士が命の価値を問うのかい?」


「兵士だからこそ問うんだっての。――オラァADに乗って面白い事が起きりゃそれでいいと思ってるだけで、人の命ってのは誰もが一つしか持ってねぇ大切なモンだとも思ってらぁ」


「驚いた。君は命のやり取りにこそ生を見いだせる狂人だと思っていたんだが」


「否定はしねぇよ。オレぁお前の息子に何度クズって言われたかわからねぇ程、ADで相手を血祭りにあげて来たし、その生き方を変えるつもりは毛頭ねぇ。


 けどオレは、AD以外で絶対に人は殺さねぇ。命を弄ぶような事もしねぇ。真剣な殺り合いだからこそ、人の命を奪う権利が与えられんだ。


テメェが子供にやった事や、事情は分からねぇけどリェータちゃんやズィマーちゃん、そんでもってヴィスナーちゃんが、仮に命を弄ばれた結果に生まれた子供だってンなら、それは命に対する冒涜だ」


「命は命だよ。君が言ったように、たった一つしかない大切な命だ」


「――命を兵器にすんなっつってんだ、クズが」



 それだけ吐き捨てると、リントヴルムは「白けちまった」と修一の元から離れていく。



「……君の様に、命のやり取りに意味を感じる事の方が、よっぽどタチが悪いんだよ」



 初めて、表情を歪めた修一を――誰も見ていない。

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