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戦災の子-12

「ミハリ」


「何?」


「手、止まっている」



 自分の手を握る哨の手を優しく振りほどく。


哨は溢れる涙を拭いつつ、けれどリェータを見据えてくれている。



「私、ソー・ズーウェイ。ズーウェイって呼んで」


「え」


「お姉ちゃんは、ソー・ズーメイ。ややこしいけれど、覚えておいて」


「ズー、ウェイ……?」


「そう。お姉ちゃんにも、ズーメイって呼んであげて欲しい」


「ズーウェイ。ねえ、一緒にレイスから抜け出して、日本へ行こうよ。そうすればきっと」


「駄目なの。だって、シューイチは私たちの命を、握っているもの」



 リェータ――ズーウェイは、自身の肌を隠すパーカーの袖をめくる。


彼女の上腕部には、無数の注射痕があった。


それは、昔出来た痕ではない。全て、最近の物だ。



「私達は、超兵士のレンタル品扱い。生命維持を行う薬物を定期的に投与されないと、生きることが出来ない。


 シューイチはこの薬を作っている共栄党へ、高い金を払って投与剤を買い取り、私達を生かしてくれている。


多分お姉ちゃんは、本能的にそれを知っているからこそ、シューイチに懐いているんだと思う。


 だから、お姉ちゃんを連れて行くことも出来ないし、私も日本へ行ったら、二日と持たずに死んでしまう」


「そんな……ッ」


「でも、嬉しい。貴女が本当に優しい子で、聡い子だという事が分かった。貴女を知る事が出来て、本当に良かった。


 ねえ、教えてミハリ。こんな風に、自分の事を話したり、相手の事を想う事が、トモダチなの?


 胸がポカポカして、ずっと貴女と一緒にいたいって、思えるの。こんな感覚初めてで、私には、よくわからない」


「――うんっ、ボクとズーウェイは、友達だよ」


「そう。良かった」



 初めて、ズーウェイは笑いという表情を浮かべた気がする。


初めて出来たトモダチという存在を嬉しいと思ったのだ。


姉以外に初めてできた、大切な人。


そう言って哨の頬に軽く口づけたズーウェイ。



――しかし、哨はだからこそ、修一に対し、怒りを抑える事が、出来なかった。



整備を置いて、歩き出す哨。


彼女の様子を見て、驚きと戸惑いを隠せずに追いかけるズーウェイ。



「どうしたのミハリ。整備は」


「いいから。来るなら来て」



哨は、彼女の手を握りながら、修一のいる部屋へと向かい、ドアを乱雑に開け放った。



ドアの向こう側には、怪我をしたのか額に包帯を巻いた修一の姿があった。


彼は量子PCのキィボードに何かを打ち込んでいたものの、しかし哨を認識すると回転椅子を回して哨へと向く。



「どうしたんだい、哨君。整備の事で何かあったのか?」


「お願いがあるんです」


「リェータも一緒か。別に彼女の監視は頼んでいないが」


「もし全部の事が済んだら、ズーウェイとズーメイを解放してあげて下さい」



 ピクリと、修一の表情が曇った。


視線はズーウェイに向き、彼女は頷く。修一はため息を溢すと同時に首を振った。



「無理だ。彼女達は定期的な薬物投与によって生命を維持している特殊な子供だ。僕の下から離れれば、それは死を意味する」


「その薬物、貴方は複製する方法を知っているんでしょう? 毎回毎回共栄党から買ってるとは思えないですし」


「……確かに複製は可能だ。だからこそ共栄党と僕にしか、彼女達を生き長らえさせる方法は無い」


「その方法をボクに下さい」


「駄目だと言ったら、君はどうすると?」


「ズーウェイ。銃、貸して」



 哨の言葉に、ズーウェイは珍しく戸惑いを隠せずに「えっ」と素っ頓狂な声をあげてしまう。


修一は視線で「駄目だ」と彼女へ訴え、しかし哨も真っすぐな瞳で、ズーウェイを見つめてくる。



「ズーウェイ、お願い」


「なにをするの、ミハリ」


「ちょっとね。別に、修一さんは撃たないよ。安心して」



 笑いかける哨の言葉と表情に、ズーウェイは思わず、護身用装備であるグロック26を、彼女へ渡してしまう。


 修一は僅かに冷や汗を流し、動こうとするも、しかし哨の動きは速かった。


スライドを素早く引き、右手で構えながら左手でマガジン部分を押さえて反動に注意し、二重構造になっているトリガーを、引く。


銃声と共に、修一の足元に着弾する9㎜の銃弾。


彼も足を止め、両手を上げる。



「何を」


「安心してください。今のは警告です」


「何をする気かと聞いているんだ」


「こうするんです」



 銃口を自身のこめかみ付近へと持っていく哨に、ズーウェイも思わず銃を奪おうとするも「動かないで」と警告を発する哨に、思わず足を止めてしまう。



「ていうか、暴発したら危ないから、今触らないで。ボクも一応プロスパーで研修受けたけど、扱い慣れてるわけじゃないし」


「その割には、随分と手慣れているように見えたが」


「珍しい体験だったし、練習したんですよ。でも、今も心臓バクバクしてます」



 笑いながらも、彼女の眼は真剣そのものだ。


少しでも動けば引き金を引くぞ、と。暴発を防止する為、トリガーに指をかけていないものの、何時でも動かせると人差し指を動かす彼女の動きが危なっかしくて、修一も唾を飲み込んで、問う。

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