表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/222

戦災の子-10

リェータは、風神の機体を整備している明宮哨の事を、彼女の隣で監視していた。


彼女が下手な細工をしないかという監視の為である。これは修一に命じられた事では無く、彼女が自発的に行っている事である。



「あ、あのぉ」


「何」


「その、何か、問題、ありますか……?」


「無いわ」



 哨は英語を喋る事が出来る。リェータも中京語と英語の二か国語を喋る事が出来るので、意思疎通の計れる英語が好ましいと、予め修一から聞かされていた。


 そして、今言ったように、彼女の行う整備に問題などない。


むしろ、感心を覚えた程だ。



「貴方は、ずっとシロサカ・オリヒメの整備を担当していたの?」


「え? あー、そ、そうですね」


「道理で。彼の操縦に迷いがないはずね」



 この明宮哨という少女の持つ整備技術は非常に高い。


まずは整備における機体状況のチェックを全て目視で行える知識量と、識別能力だ。


 通常整備士は自動整備装置というチェックシステムに機体をスキャンさせるが、彼女の場合はこれを用いらず、全て自分の目で機体の状況を見極めてしまう。


勿論見逃しなどの危険性はあるが――自動整備装置とて現状は可能性として考えられる。


 むしろ自動整備装置はあくまでシステム上で問題ないかをスキャンするだけのもので、人間の感覚以上のチェックを行えるものではない。


 言ってしまうと「規定上問題は無い」として、要チェック整備箇所を見過ごしてしまう事もある。


哨は、規定上問題のあるチェック個所を発見する感覚にも優れている上、即時に解決を行う術も持っている。


動きにも迷いはなく、そして一つ一つの工程が正確だ。


パイロットは、整備士に命を委ねると言っても過言ではない。


整備士が機体のコンディションを引き出す整備をするからこそ、信頼して機体を動かすのだ。


もし、信頼のおけぬ整備士が機体整備を行ったらどうなるか。


仮にリェータやオースィニが、本来百パーセントの実力を引き出せる場面であっても、五十パーセントの実力まで低下してしまう可能性すらあり得る。


機体整備を信頼できず、発揮できるパフォーマンスに不安を感じ、怯えてしまう可能性だってあるのだ。



「あの……少し、世間話しても、いいですか?」


「世間話?」


「どうせ、ボクを監視してるんでしょ? でも、ボクも見られてるだけって、ヤダし……」



 確かに監視をするだけでは、彼女の気が散ってしまう事も考えられる。その程度で整備の腕が落ちる人材では無いと思うものの、しかし訝しんで彼女を監視するリェータとしては、ある程度彼女の希望を叶えてやる事も必要かと認識し、頷く。



「そう。構わないけれど、何を話すのかしら」


「えっと、例えば……この風神に乗るっていう、ズィマーさん? って、どんな人なんですか?」


「私の姉」


「え、そうなんですか? じゃあ、リェータさんは、妹?」


「ええ」


「ズィマーさんとリェータさんは、今おいくつなんですか?」


「どっちも十五。姉の方が二日早く生まれている」


「じゃあ、ボクと同い年なんだ。あそこでOMS弄ってる人は、ボクのお姉ちゃんなんだ」


「知っている」



 哨が、格納庫の端で複数人のOMS技師に監視されながらも迷いなくキィボードで入力をし続けている姉・梢を指さした。



「妹って、大変だよね。姉のやる事なす事に振り回されるし」



 どうやら世間話の結果、哨がリェータに抱く心証が「じっと見てくる怖い女性」から「姉を持つ同い年の妹」に変わったようで、言葉遣いと態度が和らいだ。リェータも特に気にせず、首を横に振る。



「私は、お姉ちゃんの為に出来る事を、するだけ。大変なんて、思った事も無い」


「そうなの? ボクは大変だなぁ。お姉ちゃんってば、ボクの事が好きすぎるし」


「好きでいてくれる事を、喜ばしく思わないの?」


「そりゃ嬉しいけどさ」


「私は、もう十年近くお姉ちゃんから名前で呼ばれた事が無い。ちゃんと話をしていないの」


「そう、なんだ。でも、せっかく一緒の場所で戦ってるんだし、家族のコミュニケーションをすれば」


「無駄。お姉ちゃん、気が狂っちゃってるから」



 リェータも、彼女と話をしていて、何故か自分の事を喋ってしまう。


同じ妹という立場こそかもしれない。


彼女と話す事で、リェータの心が、どこか晴れるような気がして――つい、口を開いてしまうのだ。



「貴女は学生よね。中京共栄国ってどういう国か、勉強している?」


「えっと、昔は中華人民共和国って国と、台湾、南北朝鮮っていう国々に別れてて、元々独裁国家だったけど、合併の折に民主主義国家に成り上がった――って歴史の授業で習ったよ」


「そう。けれど実際はそうじゃないの」


「どういう事?」


「今はある程度鎮静化しているけれど、実際の中京は独裁国家の実情を隠しているだけ。今でも反逆民族の虐殺や紛争なんかは起こっているし、半鎖国状態と合併時の通信インフラの崩壊、報道及びインターネット規制で、世界への情報発信を封じているだけ」


「大変な状況なんだね」


「まだマシ。六年前にとある細菌兵器テロが起こって、それ以来は小さな紛争しか起きていないもの」


「細菌兵器テロって、酷い。新ソ連系テロ組織がやったの?」


「違う。中京の過激派による、事故を装ったもの。所謂暴動や反逆に対する報復を一斉に行って、現在無事に生きている者たちは、同じ目に遭わない様に震えて独裁政治に従っているだけの人」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ