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かつての出来事-06

 彰へ簡単な講義を行った勉は、少し目つきを変えて「さて」と本題に移る。



「本日の日米合同訓練は見させて頂いた。防衛装備庁も通さずあれだけの無茶をやらかした事を、まずは説明願おうか」


「あれ、各省庁に願い出たって言ってなかったか、修一」


「正確には各省庁へ願い出る様に上層部へ話を通しておいた、というだけだ。……もしや」


「高田重工は本当に変わったな。昔は許可申請一つ取っても少々面倒な部分も多かったのだが、今やそんな余裕も無いという事かね」



 つまり、上層部が防衛装備庁や他の関係省庁への願い出を提出する事を忘れていた、もしくは意図的に行わなかった事も考えられる。


 修一は表情を真っ青にさせつつ、土下座の準備だけは整えたが、次に勉が放った言葉で、土下座までは行わなくても大丈夫である事を知る。



「では私から以後気を付ける様に代表へ話は通しておく。この話は忘れて貰って構わない」


「は――宜しいのですか?」


「この部屋の惨状を見れば、君たちがこの高田重工でどんな扱いを受けているかも予想はできるしな。そんな事よりあのADについてだ」


「何、出資してくれんの?」


「彰!」


「気にする必要は無いよ。今の私は防衛装備庁の遠藤勉としてでは無く、一人の兵器マニアとしてここに来ていると思ってくれていい。


 だから口調などは気にせず、素の君たちを見せてくれたまえ。――まぁ、その点から言えば、出資をこの場で決める事は難しい」



 どこから聞けばいいか、勉はそう考える様に顎へ手を置いた上で、まずは「そう言えば君たちの名を聞いていなかったな」と思いついたように二人を見る。



「あ――城坂修一と申します。ADプロジェクトのリーダーを勤めさせて頂いております」


「霜山彰っす。ADのソフトウェア周りを設計させて貰ってます。あー、あと広報も一応」


「他にメンバーは」


「設計図を元にした機体設計等を行う社内外のスタッフはおりますが、プロジェクト参加メンバーという意味では、私と霜山の二人だけです」


「驚いた。本当に二人だけなのか? 他からアイデアを貰う事も無く?」


「アイデアはこれから貰うさ。自衛隊の人達も在日米軍の人達も、嬉々として感想言ってくれたしな」


「では私からも意見をさせて貰おうか」



 勉から出た意見は鈍重な機体を操縦するシステムの簡略化に関するものだった。そしてこの意見は、金森曹長や修一本人からも出ているものである。



「逆に言ってしまうと、あの兵器自体にはこれ位しか欠点が見つからなんだ」


「他にも色々あるのでは?」


「正確に言えばあるにはある。しかし既に問題として挙がっている中で、特に欠点として挙げるものではない」


「そんで、その防衛装備庁としては、このADの配備についてどう思うんすかね?」


「まぁ、今のままでは不可能だ。しかし――」



 勉は、二人の目を見据え、押し黙る。


修一と彰は、何も言わない。


彼の目を見るだけで、決して自らが行った開発を、恥じていない。



「……機体システムの鈍重さを無くす算段は?」


「並列処理システムの改修に関しては、一年もあればモノにしてみせます」


「並列処理が改修されりゃ、操縦システムも、それに伴い簡略化はある程度可能っすよ。あ、タバコ良いっすか?」


「私も吸おう。城坂君はやる口かね?」


「タバコは吸わないですね……」



 修一に遠慮する事なく、タバコを吸い始める二人の事を見据えながら、修一は一束の資料を、勉へと差し出した。



「これは?」


「次の原案です。――まずはGIX-002【希刃】ですが、これはデータ上作成したGIX-001の機体フレームに、開発予定の並列処理システムを搭載します」


「並列処理システムを回収した機体を動かし、処理制度を確かめる試作品か」


「そして中京の横槍さえなければ、来年度の日米合同訓練で、操縦システムを回収した機体を披露出来ないかを検討しております」


「なるほど――これを成す為に、君たちはこの場で戦わねばならない、と?」


「その通りです。私と霜山のクビを、繋げて頂くお手伝いをお願いできませんか?」


「その心意気や良し。大和男児たるもの、そうでなくてはな」



 吸い切ったタバコを灰皿に押し付けた勉は、二人の手を取って、約束する。



「流石に援助は今この場で決定は出来ないが、しかし高田重工の方には、私から声をかけておこう。



 私は――君たちの作る未来が見たい」



こうして、歴史は動き始めた。



この時、三人の男たちは――この場所で生み出されたADという兵器が、後に世界の軍事レベルを示す指標になるという事を、まだ知らない。



それは彼らにとって、未来の話だ。

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