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かつての出来事-04

 高田重工に勤務を初めて、約十か月の月日が流れた。


ADと名付けられた新型兵器の開発プロジェクトチームは、外部プロジェクトに居る協力者を除き、まだ二名。


城坂修一と、霜山彰の二名だけだ。



「来月にはハードウェアはロールアウトするぞ。ソフトはどうだ」


「概ね問題無し……しかしねぇ、オレ一人でこんだけの物量を動かすプログラム組むなんざ、ここはどんなブラック企業だよ」



 話しながら、キィボードを叩く指を止めぬ男が、霜山彰。無精ひげとボサボサの髪型を見て、対を成す様に小奇麗な格好をした城坂修一は、彼の頭を撫でた。



「すまないな。今は外注プログラマを雇う金すら惜しい。そもそもこのプロジェクトを軌道に乗せる事すら難しかったんだからな」


「男に頭を撫でられても嬉しくねぇからデリヘルでも呼んできてくれ」


「勤務中にデリヘルを呼ぶプログラマなんぞ聞いた事が無い」


「まぁ、今はいいさ。どうせすぐに飛ぶクビだ。そのクビが飛ぶ前に、せいぜいバイト数稼いで、稼ぎにさせてもらうさね」


「そうはならんさ。――これから、この部署は変わる。そうするのが僕達さ」


「野心家だねぇ。……と、おら。単純な姿勢制御に関するシミュレーター、出来たぞ」



 よし、と。修一が彼の隣に立ち、会話を繰り広げていく。


その二人の会話は、誰にも聞かれる事は無かったが。


二人は何とも、楽しそうにその時を過ごした。



**



 試作試験型AD兵器、GIX-001【元祖】のテストパイロットは、自衛隊第二班一課・通称【ウェストゲート】に所属する、金森信玄曹長に決定した。信玄はその企画書に目を通すと、輝かしい瞳を持ってして、興奮を隠せぬ様子で息まいていた。



「素晴らしい! 実際の稼働はともかくとして、試み自体は大変評価すべきだ!」


「この度はテストパイロットを受けて頂き、大変感謝しております、金森曹長」


「何のなんの。子供の頃から夢見ていたロボットを操縦できるんです、これ位安い物だ! ――いやしかし、これは陸戦兵器なのでしょう? なぜ私のような空の人間に」


「スゲェ悩んだけどよ、修一が空軍の人間にやらせようって言ってな」



 信玄の問いに、彰が答える。信玄は修一へと視線を向け、修一も苦笑交じりに答えていく。



「簡単です。戦車の駆動では無く、あくまで空軍用装備を陸戦兵器に流用した物だからです。高田重工製ジェットエンジンは、今の戦闘機にも一部搭載されていますからね」


「なるほど、いずれは陸軍の物となるかもしれませんが、今は空軍の畑と言う事ですな」


「陸は好みませんか?」


「否、むしろ好物ですな。しかし戦闘機によって空を駆ける興奮には勝てなんだからこそ、私は今空を駆けている。それを上回る興奮を与えてくれるのならば、それはそれで有り難い」



 ハハと笑いながら、信玄は機体内部の操縦システムを確認した。



「操縦桿九つ、フットペダル七つですか。実用化には程遠いシステムですな」


「オレ一人で開発できるシステムじゃあ、今はこんなもんが最低限だ。何せ一年で結果をある程度残さにゃ、俺達の明日はねぇんだ」


「工廠畑の方も独自の悩みをお持ちですな――畏まりました! この金森信玄、あなた方の機体を私が出来る範囲で動かしてみせましょう!」



 簡単な打ち合わせを切り上げ、帰っていく信玄を見送った後、二人は用意したコーヒーを飲みながら溜息をついた。



「おい修一、お前この機体が普通に動くと思うか」


「無理だ」



 キッパリと言い放った修一。彰も「だよなぁ」と言葉を漏らしながら、タバコに火をつける。信玄は副流煙NGだったのだ。



「まずそもそも、先ほどツッコまれた操縦システムに問題がある。操縦桿九つを同時操作できる者など、千手観音以外は居ない」


「その上並列処理にも問題があらぁな。この物量の並列処理を瞬時に終わらせる処理チップ開発は、お前さんでも後どんだけかかる?」


「開発原案は既にある。不可能でも無い。一年あれば物にしてみせよう」


「その間、俺達の首はあるのかね」


「無いだろうな――次の日米合同演習で、ある程度のスポンサーが付かない限り」


「着くと、思うかね」


「……残念ながら、思わんな。まともな思考をしていれば、このオモチャに金を出そうとするのは狂人じみた享楽者だ」


「じゃあまぁ……少しでも資金回収が出来る様に、クラウドでの資金提供を願い出てみるかね。トイッター、開発部の名前でいずれ作るぞ」


「頼む――企画・開発・設計・広報を、俺達二人でやらねばならぬのが痛い所だな」


「そろそろお前過労死すんじゃね?」


「するかもな」



 ククッと笑みを溢しつつ、しかし修一はどこか楽しいと感じている自分自身にも驚きを隠せない。



「だが――悪くは無い。ジェットエンジンに惚れた僕が、エンジンどころか一から新しいものを作り上げる快感を覚えてしまえば、正直今後の事なんか、どうでもいい」


「ADに全てを捧げるかね」


「全て。そうだな、それもいい。僕の半生は、ADと共にあった。そう言えるようになりたいものだ」



 コーヒーの酸味、タバコの匂い、男二人しかいない空間での他愛も無い話し合い。


この居場所そのものに、自分の居場所があるような気がして、修一はただ、そんな幸せを噛み締めた。

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