第一章 城坂織姫-10
城坂織姫が勝った。
武装を装備する事も無く、ただ格闘戦闘のみを行い、一度も被弾することなく、武兵隊隊長である、神崎紗彩子を圧倒した光景を見据えつつ、明宮哨は彼の操縦に視線を、そして心を奪われていた。
初めて、他人が駆る機体に惹きつけられた。
初めて、他人の操縦を、格好いいと思えた。
例え彼が、生意気で、可愛げの無い男の子であったとしても――その存在に、彼女は今、恋をした。
秋風のコックピットから身体を出した織姫は、グラウンドの隅で試合観戦を行っていた哨の元へと駆けつけて、表情を明るく見せつけた。
「どうだ明宮。勝ってやったぞ」
胸を張りながら偉ぶった彼。そんな彼に向けて、哨は小さく溜息をつく。
「……でも、腕部と脚部にあれだけの負担かけちゃって。これから織姫くんの整備する技師は、凄い大変だと思うよ。きっと関節部とか、模擬戦の度にボロボロになるもん」
「あー、それは、その」
哨の言葉を受けて、しどろもどろと言った様子の織姫。そんな彼の様子を見て、哨はフフッと微笑んだ。
「仕方ないなぁ。そんなパイロットがいつも操縦してたんじゃ、秋風ちゃんが可哀想だし」
「え」
「ボクが、君のパートナーになったげる。君の機体を、君が操縦するに値する、完璧な機体に、いつもしといてあげる」
「いい、のか? 本当に」
「その代わり!」
織姫の眼前へと、自身の指を突きつけた哨は。
「――ボクがパートナーになるんだから、半端なパイロットじゃ許さないよ。姫ちゃん!」
ニッコリと笑いながら、彼の【あだ名】を口にした。
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「神崎ちゃん負けちゃったー。あの子に勝つなんて、姫ちゃんって子、凄いねっ!」
頭頂部で小さな二つ結びを見せる可愛らしい女の子・島根のどか。――生徒会会計。
「……だが、あまりに無茶苦茶な操縦だ。機体に対して遠慮も何も無い」
銀色の乱雑に切られた短髪と、眠たげな表情を有し、モニターに映る秋風を凝視する少年・清水康彦。――生徒会書記。
「それを良しとする整備があるからでしょう。実力と、それを引き出す機体があるからこその芸当です」
腰まで伸びる黒のロングヘアを下す、整った顔立ちが印象強い女性・明宮 梢――生徒会副会長。
「それで……生徒会長。彼の処遇は、いかがいたしましょうか?」
首元まで伸ばされた蒼髪を携え、フッと笑みを浮かべながら、目元に備えた眼鏡の位置を整える美少年・久瀬良司――生徒会会長補佐。
彼らは、AD総合学園高等部・三年OMS科の教室で一堂に会しながら、視線を一人の女性へと向けた。
橙色の髪を後頭部でひとまとめにして下し、麗しく、可憐な顔立ちを有する少女である。
身長はそほど低くはないが、男性には及ばぬ女性としての標準身長。引き締まった身体付きが、男性を魅了して止まない。
彼女は冷たく、刃物のような視線を用いて、生徒会の面々を一瞥する。
誰もがプロフェッショナルで、誰もが自身へ付いてくる人材である。その者達へと向けて、彼女は言い放った。
「生徒会に招き入れます。――彼は、我々に必要な人材です」
彼女は、秋沢楠。
一年Aクラスに所属する女性であり、AD総合学園高等部が誇る最強の生徒会を統べる――生徒会長である。




