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作戦終了-05

レビル・ガントレットは、隣に立つ遠藤義明と城坂聖奈、そしてソファに腰かける久世良司、島根のどか、清水康彦、村上明久の面々に、声をかける。



「君たちを、なるべく遠ざけるべきだった」



 織姫が捕虜を殺した事を、全員が衝撃として受け止めていた。


確かに彼は元々、このアーミー隊で部隊の現場指揮をしており、そうした機会は多かったと理解しているのだが、しかし扉一枚隔てた先で、彼が人を殺した現実が、強い衝撃として心に残ったのだろう。



「あのさ、昔は姫ちゃんって、あんな感じだったの?」



 のどかの質問に「そうだな」と答えたガントレットに、聖奈が思わず涙を浮かべた。



「トウドウも呼んだから、その時に映像でも見せてもらおう。だが私が言うとしたら一つ。


 ――奴は、正しく兵器だった。人の命を確実に奪い、作戦実行の為に最小の犠牲を志す。


 犠牲の中に自分が入っていても構わないとする、まさに天性の兵士、最高の兵器、それ以外に形容する言葉が見つからない」



 ノックの音と共に、重々しい表情をした藤堂と共に、涙を流す楠が入室。



「クスノキ、オリヒメは寝たのか?」


「っ、……はい」


「ならいい。トウドウ、皆にオリヒメの取材映像を見せてやってくれ」


「レーティングZ位はあると思うんすけど」


「後学の為だ」



 あい、と返事をした藤堂が、タブレットと部屋のモニターを繋げ、映像を出力する。



「これは……ああ、三年前の爆破作戦だな」



 映像に映されていたのは一つの村――というよりは集落か。多くの兵器を用意し、大人達がせわしなく動き、女子供はなるべく安全な場所にと避難している様子が見て取れる。



「これはとあるゲリラ部隊の制圧作戦だった。T・チタニウムの製造に関わる合金素材を中京へ違法に取引していると情報を掴んだ我々が、その組織の鎮圧を目的に作戦を組んだが、しかし敵は横流しされていた中京のAD【金匱】を使用し、抵抗を見せた。


 そのままADで鎮圧してもよかったが、敵の練度が予想以上に高い事もあり、拠点の爆破作戦を立案した」


「立案者・爆発物設置を行ったのは、当時十二歳の姫ちゃんだ。これはオレが二度目の取材をした時だな」



 遠くの場所から、その集落を撮影するカメラは、何か布のようなもので覆われている。恐らく迷彩柄の布だろう。遠くから視認されぬようにそうしている藤堂が容易に想像できた。


そして、映像は途中で拡大される。


避難する子供たちに混ざり、現地の住人と同じような服を着込んだ少年がいたのだ。


それが織姫だ。


 彼は怪しまれぬように集落の施設・戦闘車両・ミサイル兵器などに近づき、小型の爆発物を設置した後、避難場所まで出向いて――そこで早送り。


 藤堂のいる場所へと戻って来た彼は、その集落の様子を眺めながら、手元にあったスイッチを、押した。



 施設は一つ残らず四散した。



 戦闘車両が爆発、中のガソリンが引火し、周りへ燃え移り、そして車の破片が大人たちの身体に刺さって、更には衣服が燃え、火達磨に。


さらには、女子供が避難をしていた洞穴からも爆風が見えた。そして崖崩れによって、出入り口も固く閉ざされた。



『成功』


『姫ちゃん、ここまでする必要、あったのか……?』


『無いかもな』


『なら何で』


『見せしめだよ。同じような事をしたら、お前らもこうなるぞっていう事を、奴らの同業者に知らしめるんだ。テロリストにはテロで対抗する。これは国際常識だ』



 身を翻して去っていく織姫の姿を映していた藤堂が、彼の背中を追いかけていく所で、映像は終わった。



「これは、まだ優しい映像だ。姫ちゃんはこの後別の組織鎮圧に出向いたが、そこでは爆弾なんざ使わずに、横並びに座らせたテロリスト全員を、自分の銃で殺してた」



 今度は恐らく中東アジア圏だろうか。藤堂の言ったように、ターバンを頭に巻いた男たちが、総勢五十人ほど床に座らされ、両手を頭にやり、何かブツブツと呟いている。


そんな男たちを、背後から容赦なく、織姫が撃つ。


最初はただ頭を撃って殺すだけが、途中から藤堂のカメラに気が付くと、両手、両足、そして腹部と撃ち込んでから、顔を撃って誰か分からぬ状態にし、殺す。



『その映像、ネットに流せるなら流せ』


『流せねぇよ、こんなもん……』


『真実を語るのが記者の仕事だろ?』


『君がやってるのは虐殺だ。それを流せっていうのか?』


『コイツらは罪のない一般市民を巻き込むテロをやってた。今後同じような組織が出てくるなら、これ以上の凄惨な報復が待ってるぞって、世界中に届けてやらなきゃな』



 そういって笑う織姫だったが、しかし彼の目は、笑っていなかった。



彼の目は――なんといえばいいか。澄んでいたのだ。



命は等しく対等であり、人の生き死にというモノを理解しているのに、それをゴミのように扱う。


これがこの世界の心理なのだと、ただ心を殺して、人を殺める為のマシーンとして生きる事を良しとした、そんな目だった。

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