作戦終了-01
輸送機の椅子に腰かけるように指示された哨と梢は、隣り合って座る事で、互いの不安を消すように手を繋ぎ、肩と肩を合わせた。
離陸が開始し、しばしの時が過ぎると――修一が椅子から立ち上がって、二人の下へ歩み寄る。
「先ほど自己紹介はしたが、謝罪だけ一つ。君たちにはショッキングな光景を見せてしまった」
「……ホントですよ。目の前で、人が、撃たれる所なんて……っ」
瞳を潤わせ、涙を溢す哨。そんな彼女の涙を拭い、抱き寄せながら――しかし修一を睨んだ梢の視線を、修一は目を伏せ、頭を下げた事でやり過ごす。
「本当に申し訳ない。だが信じて欲しい。君たちに危害を加えるつもりは無いんだ」
「私の事を撃とうとしていらっしゃいましたよ」
梢が一人の男を睨むと、男は視線を逸らす。
「そうか。もしそれが心の傷だというのなら、あの男は僕が殺そう。それで気を晴らしてくれないか?」
「そんな事、嬉しくとも何ともないっ! 人の命を、粗末にしないで下さいっ!」
修一の言葉に、哨は思わず立ち上がり、彼の胸倉を掴んで、叫んだ。
その場にいる兵士全員が腰を僅かに上げ、銃を手に取ろうとしたが、しかし修一が手を掲げて「撃つな。着席」とだけ言ったので、全員が着席し、様子を見る。
「明宮哨君、君は優しい子だ。そして明宮梢君もまた、妹想いの優しいお姉さんだ」
「そんなボクたちを捕まえる為だけに、人を殺したの!? 貴方は本当に、あの優しい姫ちゃんのお父さんなんですか!?」
「そうとも。織姫も楠も、僕の遺伝子を半分分け与えて生まれた子供だ。――その遺伝子を改造こそしたがね」
哨は、それ以上耐える事が出来ず、思わず修一の頬へ、可能な限り勢いをつけて、その掌を叩きつけた。
パシンと乾いた音が鳴り響くも、しかし修一は僅かに表情を歪めただけで、怒る事も、悲しむ事もせず、ただ彼女に座るよう指示をした。
「城坂修一さん。貴方は、何を考えているの?」
沈黙に耐え切れず、再び抱き寄せた哨の頭を撫でながら、梢が問う。
「哨は、確かに四六の理念に同意し、雷神プロジェクトを信じる子です。ですが、ただの子供でしかないんですよ? そして、私も」
「世界平和の為なんだ。――雷神プロジェクトを推し進めるだけじゃ、決して辿り着く事の出来ない、平和の為に」
「世迷い事を。これがどうして、世界平和に繋がると!? こんなか弱い女二人を捕らえて、人を殺して、それがどうやったら平和になるんです!?」
「明宮哨君に、そして明宮梢君にも、手伝ってもらいたい事があるんだ」
携帯端末を取り出した修一が、その画面を、二人へ見せる。
画面に映されていたのは、一機のAD兵器。
それは――普段哨が、愛おしい彼の為に、毎日整備を進める雷神と、そっくりの機体だった。
「GIX-P004【風神】だ。哨君にはこの機体を、雷神と同じように整備してほしい。梢君には、OMSの調整をお願いしたい」
「何故私たちのような子供に? 貴方は優秀な技師なのでしょう? 貴方がなさればいいのでは?」
「残念な事に、僕はしがない開発者でね。整備士としての技量は、哨君の足元にも及ばない。そしてOMS設計も、梢君や清水康彦君には逆立ちしたって叶わない。
……聖奈は我が子ながら恐ろしい。世紀の鬼才を七人も、AD学園という狭い箱庭で見つけてしまうのだから」
久世良司。神崎紗彩子。島根のどか。清水康彦。村上明久。
そして――明宮哨と、明宮梢。
雷神プロジェクトを守る為に必要な才能を持つ子供たちを見つけた聖奈の手腕を恐れた。
「僕が何をしたいか、それを今理解してほしいとは言わない。
けれど、僕は雷神だけでなく、風神という力を用いて、今度こそ、真の平和を勝ち取りたい。
志は、君たちと一緒なんだという事だけを、知っておいて欲しいんだ」
真っすぐに、哨と梢を見据える修一の目が、哨にはどこか、見覚えがあった。
それは――初めて織姫と会って、彼が哨の整備した秋風へ乗りたいと言ってきた、輝いた目と同じだと気づき、哨は思わず、訪ねてしまう。
「そうすれば……ボク達の安全を、保障してくれるんです、よね?」
「勿論。君たちは大切な人材だ」
哨の細い手をギュッと握り、目の輝きを強める修一に。
哨は、コクンと、頷いた。




