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作戦開始-04

 そんなオースィニと三人の学生たちが繰り広げている心理戦を見据えながら。


 アルトアリス試作三号機に搭乗しているリェータは、コックピット内に取り付けられスコープを覗き込みながら、この機体の性能を実感していた。



否。機体性能というよりは、この武装――単指向性レーザー狙撃銃に関してだ。



現在、ADという兵器における技術発展は、主に機体性能自体を特化させるモノになっている。


これはそもそも「銃弾が当たればお釈迦になる」という従来の兵器システムの考え方から来るもので、僅かな違いこそあれ、ADに搭載されている武装は、殆どが実弾兵器と接近戦用武装となる。


だが城坂修一は、ここに疑問を抱いたという。



『リェータ。君の狙撃技術は非常に優秀だ。例の計画において生み出された君の持つ視力と、その風を読む力量は、この世に数多くいるスナイパーの中でも随一と言ってもいい』



 リェータは彼の言葉に頷いた事を覚えている。


スナイパーに必要な技量は二つ。


着弾地点を正確に把握する技能。


そして何より――風向きや風速、そして地形などの外的要因によって必ず逸れてしまう弾の動きを計算できる演算技能だ。


自分はその技術に優れていると自覚している。


 否。「そうあれ」と生み出された兵器だ。


だからこそ、当初この試作三号機には、九十ミリ狙撃砲という実弾狙撃兵装が搭載されていたのだが、今回の作戦では新たに、このレーザー狙撃銃を与えられた。


これは良い。レーザーは確かに光りの屈折等によって僅かに着弾地点が逸れる事もあるが、基本は狙った箇所を正確に焼いてくれる。


 わざわざ演算を行う必要も無く、ロックオンシステムを用いて引き金を引くだけで、相手のコックピットを焼いてくれる兵器とは。


 なぜこれを最初から、と城坂修一へ問いかけた事があったが、その理由は聞いてしまえば納得のいく話だった。



『そもそも、単指向性レーザー兵器をここまでの大きさへ縮小する事が非常に難しいんだ。サーベルでさえ大型試作機の製造から小型化まで十年かかっている。秋風のレーザーサーベルの情報が無ければ、もう十年かかっただろう』



 それはそうだと、その時に納得した事も覚えている。


現在レーザー兵器を実用化している国は少ない。ミサイル防衛の為に日本とアメリカの二国がADとは違う形で導入こそしているが、大きさは三号機が装備する狙撃砲の五倍ほどの大きさで、製造コストもかさむという。


唯一小型化に成功させている例としては秋風のレーザーサーベルで、これは数百メガワット程の熱量を放出し、それを電磁波によってサーベル上に形成するものであり、これを当初GIX-P1とFH-26の二機に搭載させる予定だったが、開発が間に合わなかったという経緯もあるという。


それを狙撃銃へ転用させたばかりか、AD兵器に搭載できるようにした修一の技量を褒める事はあれど、配備が遅いと怒る事は出来ない。



「オースィニ。まだですか?」



 彼女はコックピット内で、唯一通信の繋がるオースィニへ言葉を投げた。


オースィニは今回の作戦――三機の秋風破壊作戦において、面倒な条件を付けくわえた。


それが、まだ学生である三人のパイロットを殺さないという条件だ。


勿論過度の抵抗を見せた場合はその限りではないとするオースィニだったが、しかし先ほど島根のどかの駆る秋風が抵抗を見せた際も、彼女は決して『コックピットを撃て』とは言わなかったのだ。


現在、残るは神崎紗彩子の駆る秋風・高火力パックだけだ。


しかしコックピットハッチを開ける気配はなく、彼女の許可さえあれば、すぐに撃てるというのに、オースィニはそうしない。


甘いのだ、と。リェータは舌打ちを溢す。


彼女はブリーフィングの際も、甘っちょろい事ばかりを言っていた。


 リェータやズィマー、ヴィスナーの実年齢が十五であると知った時も「子供が戦争をするものじゃないのにね」と不満を露わにしていたし、今回の作戦自体も乗り気では無かったのだ。


だが現実はどうだ? 日本のAD総合学園はそもそも子供が兵器に乗る実習を行うし、そうでなくとも、新ソ連系テロ組織に属するADパイロットで未成年者は全体の三十パーセントを占めているという現実を、彼女は理解しているのだろうか?



「オースィニ」


『ごめんよリェータ君。もう少し待ってあげてくれ』


「後一分待ちます」



 通信を切る。舌打ちをする。コックピット内を殴る。



「現実の見えてないビッチが、どうしてのうのうと生きているの?」



 吐き捨てながら、カウントダウンを開始する。


一分という時間は短い様で長い。腕の立つAD乗り同士の殺し合いならば、その一分という時間が勝敗を分かつ。


だからこそ、さっさと神崎紗彩子を殺し、決着を付けたいのに――


そうした彼女が一分を数え終わり、引き金に指をかけた、その時。



警報が、コックピット内に鳴り響いた。



「お姉ちゃん……っ!!」



 ロックオンを解除、機体固定も解除して、三号機は強く地面を踏み込み、その場から立ち去っていく。


甘っちょろいオースィニの事等、知るものか。


最愛の姉を助けなければ、と。


リェータは珍しく焦りを現しつつ、姉の下へと向かうのだった。

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