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第一章 城坂織姫-08

「あぁー、何でこんなことに……!」



 先ほどまでこの秋風が整備されていた格納庫まで戻って来たオレは、村上が笑いを堪えながら用意した灰色のパイロットスーツを着込んだ。


 最初は身体に合わぬスーツだったが、その手首に備えられたスイッチを押すことで、身体に張り付くようにフィットした。伸縮式スーツは、サイズフリーとして使えるので便利である。



「ボクの秋風ちゃんが、何で決闘の道具なんかに使われなきゃならないのさーっ!」


「心配すんな。軽くあしらってやるから」


「信用できない! 大体十年以上ADに乗ってる人だって言っても、Cランクの織姫くんがAランクパイロットの神崎さんに勝てるわけないよっ」


「アイツ、神崎って言うのか」



 先ほどまで対峙していた女の名を、初めてそこで聞いた。



「……織姫くん、トリプルD出来る程度で調子に乗ってる。確かに高等テクニックだけど、Aランクパイロットになれば一部パイロットでも出来るし、そもそもこの秋風にとって、トリプルDは『出来たら凄いな』位の技術でしかないんだから、それを誇ったってしょうがないの!」


「へぇ。意外と練度高い奴も多いんだな。――それより明宮、今すぐ反映度と反応度の変更、できるか?」


「はぁ? いや、まぁ出来るけど。今の設定からどう弄れっていうのさ」


「汎用性高い設定ってのは構わないんだけど、オレには合わないってのがさっきので分かっったからな」


「あー……もういいや。こうなったら最後まで付き合ってあげるよ……で、いくつといくつ?」


「反映と反応を、どっちも一度で」



タブレットを取り出して、無線接続で簡単に設定変更を行おうとしていた明宮が、オレの言葉を聞いてパクパクと口を開けながら、呆然としていた。



「――あの、正気? 数値、ホントに分かってる? 何か勘違いしてないよね?」


「ああ。今は反映が五十六度と、反応が六十九度になってるだろ? それをどっちも最少の一度に変更してほしい」


「やっぱ君は正気じゃないっ! そんな事したら、ちょっとマニピュレーター動かしただけじゃ機体が全然動かなくなっちゃうんだよ!? いくらなんでも極端すぎっ!」


「いやどうせ扱いなれてない機体なら、普段から使ってた設定で行こうかなと」


「ふ……普段から、使ってた……!?」



 ワナワナと、怒っていいのやら呆れていいのやら、と言いたげな表情で、明宮がオレの事を睨んでいる。まぁ、彼女の言いたい事も分かる。



【反映度】と言うのは、いわゆる『マニピュレーターを操作した時に、どの程度動きが反映されるかの度合い』を意味する数値だ。


 最小一度、最大百八十度。例えば百八十度に設定をしておけば、前にちょっと動かしただけで機体が爆速で前進を始めるし、九十度の設定ならば、緩やかな加速を……みたいな感じとなる。


 これが一度と言う事になれば、例えばマニピュレーターを最大限に押し出せば完全な加速を魅せる事となるが、ちょっと前に押し出しただけならば、まるで忍び足のように動き出す、と言うような感じだ。



そしてもう一つの【反応度】は『マニピュレーターを操縦した時の処理速度』を意味する数値だ。これが一度に近付けば近づく程高速処理を行い、逆に最大の百八十度に設定されていれば、処理に多大な時間をかける事となる。


この説明だけを聞けば「一度に設定をしておけばいつでも高速で処理が成されるじゃないか」と思うかもしれないが、問題が一つ。


 AD兵器を処理する制御装置は、他の武装や内部機器の処理も並列処理を行う為、操縦だけに処理能力を奪われてしまえば、不具合や機体制御の処理落ち等の危険性が増えてしまう。その為、余計な操縦を繰り返してしまえば、高速処理どころか、かえって処理が遅くなってしまうのだ。



通常、反映度と反応度を誰にでも使える様に調整するのが整備士の仕事であるが、今回はオレに適した設定に変更しろと指示をした。つまり――オレ専用にカスタマイズしろと言う意味だ。



「頼む。少しでも負ける要素を減らしておきたい。明宮の調整不足で負けたなんて、ただ負けるより苦痛でしかない」


「……なんで? むしろ言い訳が出来るじゃん。ボクのせいにできるし」


「オレは、お前の技術に惚れたんだ。お前の技術をお前自身がバカにする事も、誰かにバカにされる事も、オレは許せない」



 オレはひょっとしたら、自分が女だと勘違いされている事の訂正よりも、明宮の機体が如何に最高なのかを、証明したいだけなのかもしれない。


 この勝負は、その為に利用しようと考えているだけなのかもしれない。


彼女は、一人で機械いじりをしているだけで、収まってはならない。



――オレのパートナーじゃなくていい。誰か他の技師になっても構わない。ただ彼女の技術を、多くのAD兵器の為に、授けて欲しいのだろう。


――それが、生まれながらパイロットとして生きてきたオレに出来る事だと、そう思ったから。



「……はぁ。分かったよ! もう」



 彼女は、オレが指示した通りの設定にする為、素早いスピードでタブレットを操作し始めた。そして、完了と共に「ん」とオレにそのタブレットを差し出してきた。内容を確認しろ、と言う意味だ。



「そこまで言うんなら、絶対勝ってね」


「任せろ。オレはこう見えても――エースパイロットだぞ」



 確認するまでも無い。


彼女の仕事に、誤りなど有り得ないのだから。

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