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プロローグ 学園にて

(くすのき)。これからオレが何をするか、分かるか?」


「いいえ、分かりかねます」



 綺麗な橙色の髪色に合う、端麗な顔立ちをした女の子――秋沢楠が、小さい体でちょこちょこと付いて来ながら、首を振った。


 オレは両手に持つ大量のプリントを持ち直し、彼女へ説明を開始する。



「これからオレは、担任の峰岸の所へ行って、クラスで集めたプリントを届ける。だが忘れちゃいけないことが一つだけ……それは、オレがプリントやるのを忘れたという事だ」


「え、あ、はい」


「峰岸にプリントを提出する時、無事脱出が出来るように、逃げ道を確保してくれないか」


「は……どういう、事でしょうか?」



 首を傾げて、言葉の意味を探っているようだが、分からないようだ。



「その場から逃げられれば、後で何とでも言い訳が作れるんだ。だから、職員室のドアを、開けっ放しにしておいてくれ」



 その言葉に、ようやく意味合いが分かったようで、足を止めながら首をプルプルと横に振る。



「それは、認められません!」


「やっぱダメか」


「当たり前です! それは貴方の不始末です! 先生にきっちり怒られてください!」


「分かった。なら帰りにあの店のプリンを買っていこう。オレのおごりだ」


「あ……あの店の、カスタードプリンを、買っても、いいの? 、ですか?」


「ああ。二個買ってやろう。それで手を打たないか?」


「……ど、ドアを開けておくだけですよ?」


「ありがとう。じゃあ行こうか」



 目の前に職員室が近づいてくる。両手に持つプリントのせいで開けられないので、楠が開けてくれるのを待つ。


 少し早足でオレの前に立ち、職員室の扉を開ける楠。


「失礼します」と声をかけながら職員室に入り込み――楠にアイコンタクトを送る。



(頼んだぞ)



 彼女が職員室前で扉を開けながら待っている事を確認し、担任である峰岸の机上にプリントを置いた。



「峰岸先生、頼まれてたプリント、回収してきました」


「おお、助かる」



 コーヒーを飲みながら礼を言う峰岸に「いえ」と言葉を投げながら、一歩下がる。



「じゃあ、オレはこれで」


「まあ待て」



 そこで、ガシッとオレの手を強く掴んだ峰岸。恐る恐る「……なにか?」と問いかけると、彼は机の上にある一つのコーヒーカップを、オレへと差し出した。



「コーヒーを淹れておいた。持ってきてくれた礼だ、飲んでけ」


「あー、っと……ありがたいんですが、楠が待ってますので」



 職員室扉先で、扉を開けながら待ってくれている楠に視線を送ると、峰岸は「おーい、秋沢!」と声を上げた。



「あ、いえ、その……はい」



 少しだけ、狼狽したような表情を見せた楠は躊躇い、だが優等生である楠は、峰岸に呼ばれてトボトボとこちらに歩を進める。


 一応開けっ放しにしておいてくれた扉は、付近の教師によってしっかりと閉められた。



「ほれ秋沢。こっちはお前さんの為に用意した」


「あ、ありがとう、ございます」



 コーヒーを手渡された楠は、苦い笑顔を浮かべて、コップに口づけ、そしてオレへ気まずそうな表情を見せた上で俯いた。



(ごめんなさい)



 それを咎めるオレでは無い。彼女は要望に全て応え、その上で違和感が無いように演じてくれたのだ。これ以上を求めるのは酷である。


 だがオレは、楠を呼ぶ峰岸を見て、気付いた事がある。



(峰岸――気付いてやがる)



 早くなる鼓動。震えながらも峰岸の方を見て……



「さあ、お前もコーヒー飲んでけ」



 笑顔でコーヒーカップを差し出してくる峰岸を、しっかりと捉えた。



「……はい」



 まあ、とりあえず気にする事は無い。オレのプリントが無い事を確認するまでに、コーヒーを飲み切れば良いだけで――



「ッて熱ぅっ!?」


「豆から煎じる本格コーヒーメーカー5200円税抜きを経費で買えたんだゾ」


「卑怯者! これで一気飲みさせまいという手立てだな!?」


「失礼だなぁ、俺はせっかく手伝ってくれた生徒にアツアツコーヒーをごちそうしていると言うのに」



 そして、オレが舌を冷やし、コーヒーにふーふーしている間に、提出チェックを済ませた峰岸は、溜息をついて――



「修正指導を施してやるからそこに直れバカモンがあああっ!!」


「くそっ! 結局こうなるか――楠逃げるぞ!」


「は、はいっ!」



 全速力で職員室を出、そのまま中庭経由でグラウンドへ。グラウンドの正面に止めておいた、【それ】に目をやる。




人型機動兵器――アーマード・ユニットと呼ばれるそれは、十メートル弱の巨体だ。




頭部は人間に模したツインアイ。肩部には突起した電磁誘導装置が伸び、身体は装甲で堅く守られ、外装の色は白で統一されている。


機体名、GIX-P001【雷神】オレと楠の、専用アーマード・ユニット。


首筋から伸びるラダーに捕まり、ゆっくり上昇していく。


 そこで走ってくる楠の手を取り、楠を抱きかかえながら、オレは胸部コックピットに足をつけ――そして、そこから機体に乗り込んだ。



「うっし……!」



 すぐさま電源を入れ、キィボードに識別認証キーを入力すると同時に、マニピュレーターを握りしめる。


 オペレーティング・マニピュレート・システム展開、コックピットハッチ閉鎖、モード調整開始、ベルトを装着しながら楠を座らせる。


 楠も、慣れた手付きでベルトを装着した。



「行くぞ、楠!」


「うん――お兄ちゃん!」



 調整が終了し、システムが解放された状態で、思いきりフットペダルを踏み込み、姿勢制御幹を引いた。


 背部スラスターが展開し、グラウンドの砂を撒き散らしながら――空中を滑空する。


 周りに広がる、教育施設と研究施設の乱立された街並み、そこらぞこらで【雷神】のようなAD兵器が動いている。



 ――これが、オレ達の手足。これが、オレ達の体。これを操縦するオレ達が。


――この学園で【青春】を過ごす、子供たちなのだ。


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