静かな旋律
零はさっきまで死んでいたと思っていた人物が突然目の前に現れたので少し疑った。
「お前...また淳子のだしたダミーだろ!!」
零のその反応に史華はフッと笑いこう言った。
「そんなわけないでしょ!!実はあの死体がダミー人形なの!!」
そう言って史華は自分にそっくりな無惨な死体をなんの抵抗もなく指差す、それに淳子は納得がいかないのか、荒々しい声でこう言った。
「ソンナワケナイッ!!!!アリエナイッ!!!!オマエハタシカニワタシガコノテデコロシタッ!!!!」
「もうそこから...私の計画は始まってるのよ...」
「あなたが私だと思い殺した私は私があなたの気配に気づいて咄嗟に作ったダミーなのよ!!」
正直...私とかあなたが多過ぎて...意味がわかんねぇ...
零と同様に淳子もう理解出来ていなかった。
淳子は自分の理解力の無さに呆れたのか頭を抱え、かがみ込み、何かブツブツと呟いている。
その瞬間、触手が淳子の元へ戻り、零は解放された。
零は咄嗟に史華のもとへ全速力で走りだす。
「ひぃぃ!!!!助けてください史華さまぁぁぁぁ!!!!」
その姿は史華にとってとても情けなく思えた、ついさっきまで天下無敵と言っていた男が自分のような少女に助けも求めて走ってくるのだから。
男として...情けなっ!!
史華はその零の行動に対して過剰に反応してしまう。
しかし、零はそんなの全く気にしなかった、それどころか自分から史華の後ろに立ちえらそうにこう言った。
「よし!!史華!!あいつをぶっ殺せ!!!!」
「なんでそんな他力本願なんですか...まぁ、仕方ないのでやってあげますけど。」
そう言うと史華は目を瞑り集中する、すると史華の周りから光の粒が溢れてくる、その光の粒は史華と零を囲み込むように集まる。
その情景を見ていた淳子は驚愕する。
「アナタ...チョウノウリョクシャナノデスカ???」
「え?逆に今までそのこと知らなかったの?」
「俺も知ってると思ってた。」
一瞬、場の空気がおかしなりその場にいた全員が黙り込む。
淳子はその空気から自分が今侮辱されていることを察し、激怒した。
「クソドモガァァァァァァ!!!!!!!!!」
そう言って淳子は触手だし、史華たちを襲う。
零は今更その光景を見て慌てる。
「ヤバいヤバい!!!!史華!!避けるぞ!!」
「零さんは何をそんなに慌ててるんですか?これなら避けなくてもいいですよ。」
そう言って史華は右手を前にかざす、するとその手を中心に半透明なバリアが展開し、触手の猛威から史華たちを守る、触手が当たった所は特に何も無く淳子は全く歯が立たなかった。
しかし、淳子は攻撃をやめない、それどころか攻撃速度が速くなっていた。
「シネシネシネ!!!!ハヤクシネェェェェェェ!!!!!!!!」
やがて触手がバリアに当たる度に金属音のようなものが鳴り響く。
その音に零は驚き慌てながらこう言った。
「おいおいおいおい!!これますますヤバい状況じゃねぇかぁ!?」
「大丈夫、私がいるから。」
そう言って史華は今まで持て余していた左手を強く横に空を切るように振った次の瞬間、飛び散るように触手は消えた。
史華の強さを知った淳子は再び驚く。
「ナ...ワタシノコウゲキシュダンガ...」
「零さんはそこにいてね!!」
そう言って史華は人間離れした速度で淳子の近くまで近づく。
淳子は咄嗟に指にはめていた指人形を塩をまくように投げる、するとその指人形は黒いオーラに包まれ巨大化し、やがて人型になる、その姿は淳子をそのままコピーしたみたいによくできていた。
その人形は淳子に近づこうとする史華を触手で攻撃する、今度は数体が相手なのでその数に比例して触手の数も多かった、その無数にある触手は上から史華に攻撃を仕掛ける。
史華はその攻撃を咄嗟に両手でだしたバリアで守る。
「ハタシテイツマデモツデショウネェェ???」
触手の雨が史華を襲う。
流石の史華もあまりの触手の多さに手がおえなかった。
「くっ...このままじゃ...ほんとに死んじゃう!!」
今まで傷一つなかったバリアに少しヒビが入る。
零はその様子をただ眺めだけだった、零は少し今の自分に不満をいだく。
俺は...史華がこんな状況になってるのに、何も出来ないのか...
零は考えた、今の自分にできるのは何か...そして、さっき淳子に近づいたことを思い出した。
集中して...目標だけ見るんだ...
零は目を閉じ、集中する。
しばらくすると零は目を開け、左足で地面を蹴り全速力で淳子のダミー人形に向かい、人形の鳩尾を懇親の一撃で殴る。
その衝撃で攻撃を受けた人形の動きが止まり、灰になって消え去った。
やっぱそうだ!!こいつら人形だから...俺の攻撃が通用する!!
ダミー人形が攻撃されているのを目撃した他のダミー人形は即座に零に攻撃をする。
しかし、零はその攻撃を全て回避し次々とダミーに攻撃する、もちろんそのダミー人形たちも灰のように消え去る。
「よっしゃァァァァァァ!!!!ミッションコンプリートォォォォォ!!!!」
零は嬉しそうにガッツポーズをしてそう言った。
その様子を見ていた史華は驚いた、自分のような超能力者でもない人間が音速を超えるスピードの攻撃をやすやすとかわし、しかも的確に急所を狙い一撃でダミー人形を消し去った。
しかし、史華が見ていたのはそれだけではなかった...
零さん、集中してる時の目が凄かった...なんて言うんだろう...硬い意思みたいなものを感じた...零さんは本当は凄い人なのかも。
零は少し深呼吸をすると史華に呼びかける。
「おい史華っ!!大丈夫か!!」
「はい、おかげで無傷です。」
「それはよかった!!」
「じゃあ...そろそろフィナーレといくか!!!!」
「クソッ!!!!コンナニンゲンニワタシノニンギョウタチガッ!!!!」
淳子がそう叫ぶと零はフッと笑いこう言った。
「あまり人間様をナメてもらっては困るぜ!!!!」
「史華っ!!!!」
そう言って零は史華の名前を叫ぶ。
史華にはその意味がテレパシーを通じて理解できた、史華は零に向かって全速力で走りその勢いでドロップキックをした、零はその史華の足をしっかりと掴むと円盤投げのように史華をとばす。
「いけっ!!!!史華っ!!!!」
「はァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」
史華は拳の力を集中させる、その拳は光の粒が集まり眩しく光っていた。
「これで終わりだァァァァァ!!!!」
史華はその拳で淳子の顔面を思い切り殴る。
バコンっ!!!!!!!!
その拳から淳子の顔面から爆発音のようなものがくらい空間に鳴り響く。
そして、殴られた勢いで淳子は目で確認できないほど奥へ吹き飛ぶ。
「ソンナ...バカナ...バカナァァァァァァ!!!!!!!!」
淳子はそう叫ぶ、叫び声は零たちのところまで響いていた、その数秒後に淳子が吹き飛んで見えなくなった位置から弾けるように黒い空間がもといた部屋に戻る。
「お、終わったのか?」
「お...終わりましたね...」
2人は同時に疲れたと言い床に倒れ込む。
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東京都.高橋宅付近の廃墟
外に出ると、辺りはもう既に夜だった、辺りは東京とは思えないような静かさで零たちを落ち着かせる。
零は落ち着いた口調で史華にこう言った。
「もう一度確認するけど...終わったんだな...」
「はい、終わりました。」
本当に...終わったんだな...
「はい、終わりました。」
「お前俺の心よむな!!」
零のツコッミを聞いて嬉しそうに笑う、零は史華を見て不思議そうにこう言った。
「なんで...笑ってんだよ。」
史華は笑いがおさまると嬉しそうにこう言った。
「いや、零さんって本当に...」
「凄く面白い人ですね!!」
そう言って史華はニコッと笑みをうかべた、その笑みはおそらく誰がみても幸せになるであろう笑みだった、零はその笑顔を見て少し頬が赤くなった。
俺、死にかけた時は少し後悔してたけど...今思うと...案外いい選択したのかもな。
コオロギの鳴きはじめた...その鳴き声は旋律を奏でそれにあわせて草は揺れる。
2人はその間をゆっくりと歩いて言った。