摩天楼で笑う魔法使いは
夜の街並み。
行き交う人々は皆、スマホに視線を落とし足早に交差点を過ぎていく。
東京、渋谷。
所謂ハチ公前は今日もひっきりなしに人が行き交う。
ギラギラとした照明が街中を照らしてまさに昼間のよう。
そこに、1人、少し大きめのローブを羽織った人物がふらりと迷い込む。
環状線の駅の壁のモニュメントにもたれたかと思えばふっと姿を消した。
「あぁつかれた」
ばさりとローブのフードを下ろす。
日本人らしく黒い髪は乱雑に揃えられ、長めのまつげに縁取られた瞳は少しばかり茶色を含む。
「あら、湊人どうしたの?」
馴染みの駅員は気だるげに歩くその後ろ姿に声をぁけた。
ちらりと視線が向く。
数秒もしないうちにそらされて大きなため息を一つ
「実はさ、就職したんだよ。」
「おめでたいじゃない。でも、その表情ってことは」
「そう、あっち」
あっち、とは
世間一般的に普通な人間の世界のことである。
よっぽどでなければ特別な能力はなく、街中を歩く大人達は、一様に同じ服に身を包み背中を曲げて急ぎ足で街中をいく。
「あなたはこちらでお婆さまの薬屋を継ぐものだと思っていたわ」
こちら、とは
僕ら、いわゆる魔法使いの世界だ
魔法使いとは
幼い頃、一度は読んだことがあるだろう童話に登場するあれだ。
空を飛び、猫やフクロウを使役し、大鍋で何かを煮込み、人魚を人へ、魔法の鏡を使い、己の姿をドラゴンに変える
まさしくそれだ。
ローブのポケットには木で出来た杖が入っているし、背におったリュックにはいわゆる薬草などが入っている。
黒いブーツにする寄るのは相棒の猫だ。
「ばあちゃんまだ元気だし、一旦あっちの世界で勉強してこいってさ」
「湊人って薬師としてはだいぶ優秀な方でしょ?今更非魔法使いの技術なんて必要あるの?」
「まぁ色々あるんだよ。」
こちら側の魔導車に乗るべく、定期を出した。




