穴を掘る男
荒れ地の村で、男は穴を掘る。
求めているのは水だ。
井戸が出来れば、村の仲間たちが遠くまで水を汲みに行かなくてもよくなるし、川の水よりもずっと綺麗で衛生的だ。
他の村人は彼に差し入れを持っていったり、自分たちの仕事の隙間を使って手伝った。
ある日、男のスコップを掴む手に、いつもとは違う手応えがあった。不思議に思って土を手のひらですくうと、キラキラと輝く物がある。
なんと男の親指ほどもある、大きなダイヤモンドの原石だった。
男はしばらくの間、ダイヤモンドの輝きに見入った。
いつもは恨めしい肌を焼く激しい陽射しも、ダイヤモンドを通して見ればなんと美しいことか。
そして男は魅入られた。
男の目的は井戸からダイヤモンドに変わった。
ダイヤモンドを売ったお金で、屈強な掘削人を雇う。もっともっと沢山のダイヤモンドを掘るためだ。今までよりもずっと速く穴が広がっていく。
すぐに穴からは水が湧いた。
村人たちは喜んだが、男は彼らを一人も穴に近づけなかった。ダイヤモンドが盗まれるかもしれないと思ったからだ。
穴の周りには銃を持った人間を置き、夜中に出歩く村人を見つけただけでも怪しいと言って暴行した。
村人たちは目の前に水があるのに、今まで通り遠くまで水を汲みに行かなければならなかった。
一方で男もまた、ままならない思いを抱えていた。
あれから一つとしてダイヤモンドが出ないのだ。
手応えの無い仕事に苛立つ掘削人たちをなんとかなだめる毎日。
散々に愚痴と罵声を浴びせられた挙げ句、賃金まで払わなければならない。
ダイヤモンドが出るまでの辛抱だ。
男は何度も何度も自分にそう言い聞かせるが、遂に限界を迎える。
もうこれ以上はどうしたってお金が工面できなくなってしまった。
ダイヤモンドを売って得たお金は底を尽き、借金まで抱えた。
男は借金取りと、雇った人間たちの報復を怖れ、村から逃げた。
雇い主を失った掘削人たちもすぐに穴を去った。
後に残った穴を、村人たちは井戸として使っている。
男のおかげで井戸を得ることができたのだが、村人の誰も、男に感謝するものはいない。