とある零戦乗りの葛藤
ノリと勢いで書いたんで、史実と違うところとかあるかもしれません。
感想等でご指摘いただけると有り難いです。
「よし!一機撃墜確実!」
一機のF6Fが火を吐いて落ちていく。
今回の任務は攻撃隊の直援だ。
敵艦隊まで後50kmほどまで迫ったとき、
どこからともなくF6Fが現れた。
全く、どんな妖術を使ってんだか。
そう思いつつも、高度を取って敵味方入り混じる空を見下ろす。
まだ始まったばかりで、どちらが優勢かは分からない。
まあ、数でも性能でもこちらが劣っているので、
劣勢になるのは時間の問題だろう。
自嘲気味に笑っていると、
「~~~~~ッ!」
一機のF6Fに追われている友軍機を
見つけた。
後方を確認し、何もいないことを確認すると、
F6Fの斜め上方から
襲い掛かる。幸い奴は気づいていないらしく、
どんどん距離が縮まっていく。
数十メートルほどまで近づき、照準器から忌々しい
アメ公がはみ出すほどまでになり、20mm機関砲の
ボタンを押し込もうとしたその時。
—――――パイロットと目が合った。
ひどく、怯えた目だった。
これまだ敵のパイロットと目があったことは
多々あったが、その多くが殺意や生への渇望
であり、こんな目を向けられたのは初めてだった。
よく見てみると、そのパイロットは若かった。
20そこらと言ったところだろう。
今、自分はこの若者を殺そうとしている。
そう考えると、敵だというのに申し訳なさが
湧いてきた。
このような特殊な状況でなければ、
酒を飲んで笑い合えたのかもしれないのに。
はっと気づいたころには、彼我の距離はすぐそこまで
縮まっていた。このままでは落とせなくなる。
ここで見逃せばそのしわ寄せは友軍の死と
言う形でやって来る。
前途ある若者の命を奪うことに心の中で
誰かに詫びつつ、ボタンを押し込んだ。
腹に響く発射音と共に、20mmの凶弾が打ち出される。
それは敵機の表面で支那でいう新春さながらの火花を
散らす。しかし、その火花は春を祝うものではなく。
殺意が込められているものなのだ。
敵機が金属片をまき散らすのを確認すると、Gに
耐えながら再上昇する。
昇り切ったあと、機体を傾けて先ほどの
F6Fを探す。
そいつはまだ元気に飛んでいた。
しかし、友軍機に引き金を引く様子は見られない。
不審に思いつつ目を凝らすと、
—――――コックピットが紅く染まっていた。
あれならば確実に息はないだろう。
喜べばいいのか、悲しめばいいのか迷っていると、
F6Fは急に機体を真下に向け、
そのまま重力に逆らわずに落ちて行った。
意思を無くしたカモメには、自然の摂理に
逆らうことは出来なかったのだ。
ゴマ粒ほどの大きさになったところで、
ひと際大きな金属片をまき散らしながら、
カモメは虚空に散って行った。
勿論、パラシュートは射出されなかった。
「二機目撃墜確実...」
先ほどとは違い、まるで命令に渋々従っているような
口調で呟いた。
彼は明日も出撃するのだろう。
前途ある若者の命を奪うために。
「クソッタレが...」
誰に向けての言葉かは分からない。
だが、その言葉が”戦争”というものに
向けられていたのは確かだった。
評価・感想等よろしくお願いします。
まな板姫様に魔王を釣ってくれと頼まれた件
https://ncode.syosetu.com/n9183eh/
”高度(標高)”が”レベル”になる世界
https://ncode.syosetu.com/n4721eo/
この二つもよろしくお願いします。